第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「そうだ。で、おまえたちの身の振り方だが……おまえたちは先鋒軍に入れねえ。中軍、後軍に編入させるつもりだ」
「……え?」
「それは……、どういうことでしょう?副長が指揮するのは、先鋒軍なのですよね?」
「おまえは鳥羽伏見の戦を経験してるんだ。実戦経験のねえ部隊を指揮するにゃ、もってこいの人選だろ」
「しかし……」
確かに土方さんの説明は筋が通っている。
だけど、島田さんは正直言って土方さんと同じ部隊で戦いたいはず。
そんな気持ちが分からないほどに土方さんは鈍感な人じゃないはずだ。
なら、分かってて言っているのだ。
何故そう言ったのか分からないと思っていれば、しばらく考え込んでいた島田さんは土方さんを真っ直ぐに見つめた。
「……わかりました。副長の命令であれば、従います。ですけど、ひとつ確認させてください。新選組がなくなってしまうわけではありませんよね?俺は、新選組の島田魁として、この戦に参加するつもりです。【誠】の隊旗を掲げます。……それで、構いませんよね?」
島田さんは念を押すように土方さんに尋ねる。
そんな彼から土方さんは視線を逸らした。
「……好きにしろ」
「それからもう一つ、部隊の指揮は、雪村君には荷が重すぎると思います。どう考えても前線に出られるとは思えませんし、彼女は隊士ではなく、副長の小姓という立場ですから。……では、俺は他の隊士たちに決定を伝えに行ってきます」
島田さんはそう言い残してから、大きな身体を揺らしながら他の隊士の方々の元へと走っていく。
そんな彼を見送ってから、私は土方さんへと視線を向けた。
彼は疲れたように小さく息を吐くと、その肩を落としていた。
だいぶ疲れが溜まっているように見受けられる彼に、私は尋ねた。
「どうして、あんな指示を出したんですか?」
私の言葉に土方さんは何も答えない。
そんな彼に私は眉を小さく寄せながらも、小さく息をつきながら言葉を投げた。
「私は、貴方から離れるつもりはありません。貴方の傍にいると誓い、約束しましたから……」
彼は私の言葉に何も言わない。
ただ、沈黙が流れ続けてその沈黙が少し居心地の悪く感じ出した時だった。
土方さんはやっと言葉を発したのである。
「……近藤さんがいつ戻って来るのかさえわかりゃ、死ぬ気で戦いもするさ。だが今度ばかりは、どうなるかわからねえときてやがる」