第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「……とりあえず、この軍の編成について説明しよう。旧幕府軍脱走隊の約三千人が、先鋒・中軍・後軍に別れている。僕は、その総督を任されているんだが……」
「総督?つまり、あんたが総大将ってことか」
「一応、そういうことになるね」
またもや驚いてしまった。
この人が総大将だなんて思いもしなかったし、何とも総大将という雰囲気がない人だ。
そう思っていれば、土方さんは大鳥さんの言葉にうんざりとした表情になる。
彼の心情を察するに、大鳥さんを近藤さんの代役に考えるにはあまりにも落差が大きすぎる。
そう考えいるんだろうと思えば、大鳥さんは彼の反応を予想していたようで、平然と話を続けた。
「先鋒は、桑名藩、会津藩を主体とした部隊。そして中軍は、僕たち伝習隊を主体としている。後軍は、旧幕府回天隊が中心だ。僕は、この先鋒軍の参謀に土方君を推薦しようと思っている。どうですか?」
「……どうして、俺なんだ?」
「僕は実戦経験があまりないから、優れた先達に従おうかと思ってね。それに、新選組の土方君の名前は、敵にも味方にも知らない者はない。先鋒軍には、うってつけの指揮官だ」
大鳥さんは何故か得意げに言うが、土方さんは無言のままだった。
兎に角、土方さんは大鳥さんと反りが合わないようで、目の前の相手を煙たくて仕方ないと様子があかさまらに滲み出している。
そんな彼らを見ていた私と島田さんは、少し不安げにそわそわとしてしまった。
だけど大鳥さんはそんなことを気にしない様子で笑顔のまま。
「では、僕はこれで失礼するよ。詳しい作戦については、また後日話し合うことにしよう」
結局、会話が噛み合わないまま大鳥さんは幕軍隊の中へと消えてしまった。
そんな彼の後ろ姿を見ながら、土方さんへと視線を移すと彼はうんざりとした顔のままだった。
そして、その晩のこと。
野営をしていれば、土方さんに呼ばれた。
「……おい、島田、雪村、話がある。こっちへ来い」
「……はい」
新選組の本隊と羅刹隊は斎藤さんが率いて、現在は会津へと向かっている。
今ここにいるのは、私と島田さんにそして十人の隊士さんだけとなってしまっていた。
「……おまえたち、さっき、あの歩兵奉行さんとやらが言ってたことを覚えてるか?」
「副長が、先鋒軍の指揮を執るということですよね?」