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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第12章 欠けていくもの【土方歳三編】


後ろから他の幕軍兵を押しのけながら、誰ががこちらにやって来ているのが見えた。
そしてこちらに来た人物は、土方さんを見つけると人懐っこい笑みを浮かべる。

「初めして、君が土方君かい?君たち新選組の名前は、僕たちの間でもずいぶん鳴り響いているよ」
「……何だ、あんたは」
「ああ、自己紹介がまだだったね。僕は、歩兵奉行の大鳥圭介。伝習隊の指揮を任されている。新選組の皆さんには今後、色々とお世話になると思う。よろしく頼むよ」

にこにこと愛想の良い笑顔を浮かべた、大鳥さんという方は土方さんへと右手を差し出す。
そんな彼を見ながら私は少し驚きながらも、彼をついまじまじと見てしまった。

歩兵奉行と名乗ったけれども、武士というよりも豪商の子息の方がしっくりくる人だ。
それにすごく愛想が良いし、武士という感じはあまりしない人。

(なんだか、あまり武士というのがしっくり来ない人だなあ……)

そんな彼に土方さんは冷ややかな眼差しを向けてから、差し出された右手を見つめていた。

「あっ、と……、手袋を外すのを忘れていたなあ」

土方さんの視線に気が付いた大鳥さんは、慌てながら右の手袋を外し、改めて土方さんへと手を差し出した。

「……何だ?金でも恵んでくれってのか」
「シェイクハンド、だよ。知らないのかい?欧米での、挨拶のようなものだよ」
「……しぇいくはんど」

欧米ではそんな挨拶の仕方があるんだ。
そう思いながら愛想笑いを浮かべた大鳥さんを見ていれば、土方さんは興味無さそうに彼から視線をそらしていた。

彼はしばらく土方さんへと右手を差し出していたけれども、諦めたのか無言で手袋をはめ直していた。
少し困ったように微笑んでいた大鳥さんを横で見ていた島田さんは声をかける。

「大鳥さん。副長に、何かお話があったんじゃないですか?」
「ああ。是非、新選組の副長から直々に京での、鳥羽伏見の話を聞かせてもらいたいと思ってね」
「俺から聞くより、尾ひれのついたうわさでも追っかけた方が楽しいんじゃねえか。……お喋りな連中が多いみてえだしな」
「いやぁ、これは申しわけない。軍備は整えたんだが、軍紀の方はまだ末端の兵にまで行き届いてなくて」

土方さんの言葉に、大鳥さんは困ったように先程まで新選組のうわさ話をしていた兵の方へ視線を向けていた。
それから改めて土方さんへと向き直る。
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