第11章 乞い求む【土方歳三編】
私は眉を下げながら、少し視線を彼から逸らしながら言葉を続けた。
「近頃は、朝も夜も走り回ってらっしゃいますし」
「人のことを気にしてる余裕なんて、あんのか?おまえは姉の事も心配してるだろうが」
「それは、そうですけど……」
「江戸を出た後、途中で倒れたら容赦なく置いていくからな。覚悟しとけ」
「……絶対に置いて行かれないようにしますから、ご安心ください」
そう応えるのと、彼は喉をくつくつと鳴らしながら笑っていた。
少しだけ何時もの彼に戻ったような気がしたけれども、土方さんは追い詰められているのだと、さっきとやり取りで理解した。
私の言葉でまた追い詰めていないだろうか。
そう思いながら、私は土方さんの顔を見てから頬が赤くなっているのに気が付いた。
「……すみません、土方さん。叩いてしまって」
「いや、おかげで目が覚めた。だが、かなり痛え平手打ちだったな」
「うっ……すみませんでした」
平手打ちしたことを少し後悔しながらも、私は歩き出した土方さんの後を追いかけたのだった。
そして、沖田さんと別れた土方さんと私と相馬君は、迎えに来た島田さんと合流する。
「ーーお疲れ様です。ご無事で何よりでした!」
けれど、その時だった。
「……副長、ご相談があります」
相馬君は身を固くさせながらそう言い、土方さんは怪訝そうにしながら彼の方へと振り向く。
「俺に、局長と野村……そして雪村先輩の助命嘆願をさせてください!幕府側も、局長をこのまま死なせたくはないはずです。協力してくれる人も、たくさんいると思います。ですから、どうかーー」
深々と相馬君は土方さんへと頭を下げて、懸命に懇願していた。
そんな彼を土方さんはしばらくの間見下ろしていて、何かを考えていた。
だがやがて、土方さんは困ったように笑う。
「……言おうと思ったことを、先に言われちまったな」
「副長!それではーー」
「島田、頼みがある。雪村を連れて、先に江戸を出てくれ」
「え……!?」
「俺たちは、近藤さんの助命嘆願を続ける。おまえの存在はもう、足手まといにしかならねえ」
先程の感情的のとは違う。
土方さんは冷徹な考えをしてからこの結論を下したのだろうと察した。
その事を考えれば、反論は出来ずにただ眉を寄せてから俯くしかできない。
「これは副長命令だ。俺もすぐに後を追うから、もうしばらく待ってろ」