第11章 乞い求む【土方歳三編】
怒鳴るように叫んだ私に、一瞬だけ土方さんの瞳が驚いたように揺れた。
だけども私はそんな彼を無視して言葉を続ける。
「今どうするべきなのか、土方さんならわかっているはずです!」
「何をするかは俺が決めることだ。おまえが口を挟むことじゃねえ」
「ですが、もし新政府軍に見つかりしたらどうするおつもりなんですか!」
「だったら何だってんだ。可能性の話なんてしてたら、何もできねえで終わっちまうぞ」
「じゃあ、井上さんや山崎さんの気持ちはどうなさるおつもりなんですか!?」
「ーーおまえに何がわかる!」
そう土方さんが叫んだ瞬間、私は彼の頬を平手打ちしていた。
平手打ちすれば乾いた音が響き、土方さんは驚いた顔をして私を見下ろす。
じわりと涙が浮かび、その涙は雫になって落ちていく。
涙を溢れさせながらも、私は彼を睨み付けながら怒鳴るように叫んだ。
「私にだって分かります!あの時、鳥羽伏見の戦いで井上さんや山崎さんが、何の為に命を懸けたのかこの目で見てきました!!お二人は新選組を愛していて、副長である貴方を深く信頼していた!そんな彼らが、今の貴方を見た時どう思うか、貴方は分からないのですか!?悲しむに決まっているでしょう!」
「……悲しむ、か……」
不意に彼は目を見開かせたけれだも、直ぐに遠い目をしながら肩の力を抜いていた。
「残された奴は、先に逝った奴らの意志も、継ぐべきだと思うか?」
「……私はそう思います」
恐らく、ここに井上さんや山崎さんがいれば私と同じように彼にこうしたはず。
怒ったり叱ったり、彼の行動を咎めたりしていたはずだ。
「じゃあ、俺が死ぬまで荷物は増えるばかりじゃねえか」
「……土方さん」
すると彼は小さく笑いながら、私へと手を伸ばしてきた。
そして彼の指は私の目元に触れて、溢れていた涙をゆっくりと拭い始める。
優しいく溢れた涙を何度も拭いながら彼は何処か悲しそうに微笑む。
「怒鳴っちまって悪かったな。確かにおまえは【分かってた】」
彼の悲しげな微笑みに、私は胸に鈍い痛みを感じた。
「不利な状況で、俺がやけっぱちになるわけにゃいかねえよな。大将が戻ってきた時、居場所がなくなってたんじゃ笑い話にもならねえ」
「あの、土方さん。あんな事を言ってしまいましたが、無理はなさらないでください」