第11章 乞い求む【土方歳三編】
「言葉じゃなくても、いいだろう」
「えっ……?」
「おまえの想いを……見てきたものを皆に伝えることができれば、それでいいじゃないか」
「相馬……」
その人はしばらくの間、気まずそうな表情で俯いていた。
だけどやがて、眉間に皺を寄せながら、何処か困惑したように相馬君を見る。
「……俺は、新選組の隊士だったわけじゃない。新選組ができた時、たまたま、その場に居合わせただけだ」
「じゃあ、おまえがあの絵ーー羅刹になった芹沢さんの姿を描いたのはどうしたなんだ?もう関係ない人たちだと思ったら、金にもならないのに、あんな絵なんて描かないだろ」
「それは……」
「おまえは、今の土方さんや山南さん、藤堂さんたちに伝えたいことは……、本当に何もないのか?」
絵、羅刹という言葉で確信した。
彼が井吹龍之介という人だという事と、相馬君は事情を分かって彼を呼びに行ってた事を。
だけど当の本人は会いたそうじゃない事を、少し複雑な気分を抱いていた時だった。
「おい雪村、おまも総司に一言かけてやれ」
「あっ……はい」
土方さんに呼ばれて、私は慌てて建物の中へと戻った。
そして少しの間だけども、私は沖田さんと歓談した後ーー。
「それじゃあな、総司。あんまり松本先生を困らせるんじゃねえぞ」
「困らせたりはしてませんよ。あの先生が心配性なだけです」
「相変わらず口が減らねえ奴だ。……まあいい。俺たちは、そろそろ行くからな」
「あれ、もう帰っちゃうんですか?」
「沖田さん、お邪魔しました。ちゃんと松本先生の言うことを聞いて、安静にしてくださいね」
「はいはい、分かったよ、千尋ちゃん。君は変わらず、お節介で口煩いよね。なんだか懐かしいよ」
「……そうですね」
彼の口減らずなところに、私は少しだけ微笑んだ。
そして先に部屋を出ようとした時、沖田さんに呼び止められた。
「千尋ちゃん、ちょっと」
「はい?」
沖田さんは私へと手招きをしていて、どうしたのだろうと不思議に思いながらも彼の元へと歩み寄る。
すると彼は内緒話をするように、私の耳元に口を寄せてから土方さんに聞こえないように話し出す。
「土方さん、顔色悪いね。あんまり状況が良くないのかな」
「……その、えっと」
迂闊に口を開けば不用意な事を言ってしまいそうで、思わず私は口を噤んでしまっていた。