第11章 乞い求む【土方歳三編】
「誰が嘘吐きだ。近藤さんに関することで、俺が嘘を言ったことなんざねえだろうが」
京にいた頃と変わらず軽口を交わしあっている土方さんと沖田さん。
そんな二人の双眸には何処か懐かしむような、名残惜しそうな光が見え隠れしていた。
(なんとなくだけど……相馬君が席を外したのが分かったかもしれない)
私も席を外した方が良いかもしれない。
そう思って、私はこっそりと部屋を出てから外へと出ればひんやりとした空気が頬を撫でた。
「……星が、出てる」
無数の星が広がる夜空を見上げながら、私は眉を少し寄せてから唇を噛み締めた。
(千鶴は、大丈夫だよね……。あの子、何も酷い事はされていないかな)
先程から千鶴はどうなっているのかだろうかとばかり、考えてしまう。
無事でいてほしいと願いながら、私は視線を民宿へと移した。
もしかすると、この夜が土方さんと沖田さんの根性の別れになってしまうかもしれない。
傍らで見ていた時から、なんとなくそんな感じがして苦しくなった。
「……あれ?あれは、相馬君?」
ふと、視線をさ迷わせた時に少し離れた所で相馬君の姿を見つけた。
相馬君は誰かと話し込んでいるようで、彼が知り合いに会いに行くと言っていた事を思いだす。
(あの人が、相馬君の知人なのかな?)
そう思いながら彼らを見ていれば、彼らの会話が聞こえてきた。
「なあ、本当にいいのか?おまえ、副長とは知らない仲じゃないんだろう?せっかくだから、挨拶ぐらいした方がいいんじゃないか」
「……いや、やめとく」
「どうしてだ?俺たち、もう江戸には戻ってこられないかもしれないんだぞ」
「近藤さんは、新政府軍に捕まっちまったんだろ?……そんな状況で、土方さんにどんな言葉をかけたらいいか、わからないしな」
会話的に、相馬君が話している方はどうやら土方さんや近藤さんの知人でもあるみたいだった。
元々新選組だった方なのかなと思った時、ある事を思い出した。
(もしかして、井吹龍之介さん……?)
相馬君と初めて会った時に、彼が持っていた羅刹の錦絵を描いた人であり新選組にいたけれど訳あって新選組から離れた井吹龍之介さんなのかもと思った。
少し驚きながらも彼らを見ていれば、相馬君はどこか歯がゆそうに、そして残念そうに項垂れていた。
だけどやがて、顔をゆっくりとあげて苦笑を浮かべる。