第11章 乞い求む【土方歳三編】
彼の声はもう泣いていた。
身体を震わせながら、喉の奥底から声を絞り出すように叫ぶようにしながら。
「結局……、結局俺は、あの人を見捨ててきたんじゃねえか!徳川の殿様と同じで、絶対に見捨てちゃいけねえ相手を捨てて……、てめえだけ生き残ってるんじゃねえかよ!」
土方さんの口から溢れ出す言葉が、あまりにも痛々しくて悲しくて、気が付けば私は彼の背中にすがりつくようにしていた。
彼の震える背中に顔を埋めるけれど、土方さんは身を固くしたままで立ち尽くしている。
そんな彼に、私は声を震わせながら言葉をかけた。
「近藤さんが、おっしゃってました……。土方さんに任せておけばきっと何とかなるって……言った時に、それも酷だって、そうおっしゃってました……」
私が泣いてはいけない。
私より彼が一番辛くて、泣きたいはずなんだから私が泣いてはいけないって分かっているのに……。
涙は私の意思と関係なく溢れ出していた。
「土方さんが、近藤さんのことを思っていたように……、近藤さんも、土方さんの為を思ってたんだと思います。どちらが悪いとか、そういうことじゃなくて……近藤さんは、土方さんに死んで欲しくなかったんです。もっともっと、貴方に生きて欲しくて、土方さんは近藤さんの命令だから、どうしても聞かなきゃ、いけなくて……っ」
涙が溢れて止まらない。
声が上手く出なくて、必死に絞り出すように私は言葉を続けた。
「だから……、だから……どうしても、ああならざるを得なかったんだと思います」
土方さんは返事はしなかった。
ただ、静かに私の言葉を聞いているだけ。
(私の声は届いてないかもしれない)
何で私はこんな時まで無力なんだろう。
今、切実に慰めを欲しているかもしれない彼を助けることが出来ないのだから。
やがて、土方さんの背中から力が抜けたのを感じた。
「俺を生かす為、って……、新選組の近藤勇がいなくなった今、どうやって生きろってんだよ。あの人を高いところまで押し上げるって夢があったから、俺は今まで生きてこられたんだ。……それがなくなっちまった今、俺なんてもう、抜け殻みてえなもんじゃねえか」
自嘲したような、泣き笑いの声が土方さんの唇から溢れ出す。
「……近藤さんよ、あんた、俺に厄介事ばっかり押し付けてくれやがるよな」
嗚咽混じりの声でそう呟いたあと、彼はもう何も言わなかった。