第11章 乞い求む【土方歳三編】
土方さんは刀を手にしたまま、こちらに背を向けて立ち尽くしていた。
そして暫くしてから、彼はやっと言葉を発する。
「……島田。他に敵がいねえか、見てきてくれ」
「は、はいっ……!」
島田さんは緊張したような声で発すると、直ぐに走り去っていった。
そんな彼の背中を見送っていれば、土方さんは私にも言葉を投げかけてくる。
「……おまえも、一緒に行け」
何時もなら、その言葉の通りに私は行っていたかもしれない。
だけど今はどうしても、彼の言葉に従う気は起きなくてその場から動かなかった。
すると背を向けている土方さんは、苛立ったような声を投げてくる。
「……何をしてやがる?俺の命令がきけねえのか」
「その命令だけは、きけません……」
「……副長命令だぞ」
「お邪魔にはなりません……。だから、せめてここにはいさせてください」
彼から離れる事が出来なかった。
一人にしてはいけないと思ってしまい、私は彼の命令を拒絶してその場に留まる。
そして彼の背中を見つめた。
まるで誰もかも拒むような背中。
私が今いる所からでは、土方さんが今どんな顔をしているのか分からない。
だけど、今まで見てきた中で彼の今の背中は悲しそうで寂しそうだった。
(こんな時、私はどうすればいいの……)
何て言葉をかけるべきなのか、彼に何と言ってあげればいいのか。
私はなにも思い付けずに、ただ彼の背中を見ていた。
「俺は……、何の為に、ここまでやって来たんだろうな」
「土方さん……」
それは、甲府の山で土方さんが漏らした言葉と同じだった。
「……あんな所で、近藤さんを敵に譲り渡す為か?その為に、今まで必死に走って来たのか?あの人を押し上げて……、もっともっと高い所までかつぎ上げてやりたかった。関聖帝君や清正公どころじゃねえ。もっともっとすげえ戦をさせて……、本物の武将にしてやりたかった。片田舎の貧乏道場の主と百姓の息子で、どこまで行けるのか試してみたかった」
土方さんの声は、今にも泣き出しそうに震えていた。
その声に胸が苦しくなり、目の前の景色がじわりと歪んでいくのに気が付く。
「俺たちは、同じ夢を見てたはずだ。あの人の為なら、どんなことだってできるって思ってた。なのに、どうして俺はここにいるんだ?近藤さんを置き去りにして、どうして、てめえだけ助かってるんだよ」