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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第11章 乞い求む【土方歳三編】


「……千尋君、これを持って行きなさい」

手渡されたのは何かが入っている袋。
手を動かすたびに、中からじゃら……という音が聞こえてくる。

「あの、これは……?」
「逃亡資金だ。君には、君ら姉妹には何もしてやれなかったからな。せめての気持ちだ。……受け取ってくれ」

何で近藤さんは、こんな時までも優しいんだろう。
今から自分は投降して、最悪の場合殺されてしまうかもしれないというのに。
それなのに他人の事を思いやるなんて、当たり前に出来ることじゃない。

じわりと涙が浮かぶ。
金子袋を掴みながら、私は泣きそうになるのをなんとか堪えていた。

「今なら、まだ間に合うはずだ。トシには言っておくから、ここを出たら千鶴君と共に松本先生を頼ってどこかに逃げなさい。いくら薩長でも、君らのような女子まで酷い真似をしないだろう」
「……そんなっ」
「我々と関わったことは忘れて好いた男と結婚して、静かに暮らしなさい。それが女にとっての幸せだと思うよ」

私は静かに首を横に振った。
近藤さんの気持ちはとても有難いけれども、私は逃げるつもりはさらさらない。

「私は、逃げません。土方さんと共に行こうと思います。私は、あの人の小姓ですし……あの人、私が止めないと無理ばかりしますから」

泣かないようにしていたのに、目からは自然と涙が零れ落ちてしまった。
だけど私は無理矢理笑顔を浮かべて見せる。

「私も、逃げるつもりはありません。相馬君と一緒に、これからも新選組と共に行きます。相馬君も、目を離したらすぐに無理をしますから」

千鶴と私の言葉を聞いた近藤さんは、私たちに優しい眼差しを向けてくれる。

「そうか……。トシは、いい部下に恵まれたなあ。そして相馬君、君もいい上司に恵まれたものだ。千尋君、トシのことを……これからもよろしく頼むよ」
「……はい」

声を震わせながら、私は頷いた。
隣にいる千鶴も涙を溢れさせていて、私たちはそれ以上なにも言えなかった。

そして、その後土方さんと島田さんに呼ばれた私たちは長岡邸の庭に集まった。
そこには近藤さんと共に残ることになった野村君もいる。

「……野村、近藤さんを頼んだぞ」
「……はい」

それだけを伝えると土方さんは『行くぞ』と小さくつぶやき歩き出し、私達も追いかけるように歩き出たした。
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