第11章 乞い求む【土方歳三編】
それまで静かに話を聞いていた野村君が、真剣な表情で言葉を放った。
彼の言葉に周りは驚いた表情を浮かべて、相馬君は絶句したような表情をする。
「野村、おまえーー」
「旗本って名乗るのに家来が一人もいなかったら、絶対怪しまれるじゃないですか。大丈夫ですって。こう見えても俺、運はいいんで、絶対に生き残ってみせますって」
「……本気なのかね?野村君」
近藤さんは野村君の目を真っ直ぐに見つめる。
彼が本気で言っているのかどうか、確かめているような眼差しだ。
「当たり前じゃないっすか!俺だって、新選組隊士ですよ!」
「じゃあ、俺も残ります!二人を残して、自分だけ逃げるわけにはいきません!」
「いい加減にしろ、てめえら!近藤さんが何の為に投降するのか、少しは頭を使って考えやがれ!」
土方さんは厳しい表情をして、彼らに怒号を浴びせる。
けれども、相馬君と野村君はそれにひるむことなく土方さんを真っ直ぐに見ていた。
決意はもう固まっているんだ。
近藤さんのように、もう決意は固くてそれが揺るぎそうにはなかった。
そんな彼らに土方さんは鋭い目付きを向ける。
「野村、おまえ本気なんだな?」
土方さんの問いかけに、野村君は静かに頷いて返した。 やがて土方さんはそんな彼に半ば呆れた様子を見せる。
「……近藤さんの付き添いでここに残していけるのは、一人だけだ。相馬、おまえは俺たちと一緒に来い」
「そんな、俺はーー」
「相馬君、君には雪村君たちの護衛を頼みたい。彼女たちは、心ならずも我々に関わることになってしまった人たちだからな。……絶対に死なせてはならん」
近藤さんの言葉に、相馬君は苦しげに息を吐き出していた。
「それとも、俺のような無能な局長の命令など、聞きたくないかね?」
「ーーそんなことはありません!この相馬主計、命に代えても雪村先輩たちをお守り致します」
「……いい返事だ」
相馬君は未だに苦しそうにしていた。
そんな彼を見ていた土方さんは、大きく息を吐くと私の方へと視線を向けてくる。
「雪村、おまえはここで相馬と姉と待ってろ。支度が済んだら、すぐに呼びに来る」
「……はい」
土方さんと島田さんが出ていくと、その場には私と千鶴に野村君と相馬くん、そして近藤さんだけとなった。
すると近藤さんは懐の中から何かを取り出して、私の手を取ると掌に何かを載せる。