第11章 乞い求む【土方歳三編】
野村君はそう叫びながら、近藤さんの元に駆け寄る。
そんな彼に近藤さんは困ったように微笑みながら、小さく頷いた。
「もう、決めたことだ」
「そんな……近藤局長」
「近藤さん、そんな……そんな……」
千鶴と相馬君の言葉に近藤さんは、更に困ったように微笑んでしまう。
だけど直ぐに真剣か表情をすると、私と島田さんの方へと視線を向けてきた。
「島田君、千尋君、トシを連れて一緒に早く逃げてくれ。もたもたしていると連中が押し入ってくるぞ。そうなると、俺が投降する意味がなくなってしまう」
私は何も言えなかった。
ただ身体が震えているだけで、何も言えずにいると島田さんが土方さんへと目を向けていた。
島田さんは迷った表情をしている。
命令を聞くべきなのか、それとも土方さんのように近藤さんが投降するのを阻止するべきなのか。
だけど、すぐに彼は決意した顔で土方さんを見た。
「……副長、行きましょう」
島田さんはそう、言葉にした。
だけど土方さんは唇を噛み締めたまま、その場から動こうとしない。
そんな彼に近藤さんが優しい表情を浮かべて、肩に手を置いた。
「なあ、トシ。そろそろ、楽にさせてくれないか。俺を担ぎ上げる為に、昼も夜も働いて、あちこち走り回って、しまいには羅刹にまでなってしまって……。そんな姿を見てる方が、俺はつらいんだ。俺は……、おまえにそこまでしてもらうほどの男じゃないからな」
土方さんは顔を上げようとしなかった。
涙を懸命にこらえながら、僅かに身体を震わせながらどこも見つめないようにして、喉の奥底から言葉を絞り出す。
「俺は……、俺のしたことは、何だったんだ。侍になって、御上に仕えて、戦に勝ち続けて……、そうすりゃあんたは一緒に喜んでくれるんだとばかり……」
「……すまないな。おまえにそこまでさせたのは、この俺だ。俺が、おまえを追い詰めたんだ。思えば、はかない夢……だったなあ。侍でも何でもない俺たちが、腰に刀を差して御公儀の為に働いてたなんて」
近藤さんの言葉は途方もなく優しくて、それがかえって土方さんの胸を詰まらせるようだった。
息を殺して涙を必死にこらえた土方さんは、きつく目を閉じてから顔を上げる。
「……島田、残った隊士たちに伝令だ。逃走経路も確保しとかねえとな」
「はい!」
「俺は行きませんよ。ここに残ります」
「……何だと?」