第11章 乞い求む【土方歳三編】
そんな私の言葉に、近藤さんは言葉を返してはくれなかった。
難しそうな表情を浮かべてから、私の方を見ずに言葉をかけてくる。
「トシは、どうしている?」
「土方さんですか?土方さんなら、自分のお部屋で書き物をなさっているみたいです。多分ですけど、市川にいらっしゃる斎藤さんに指示書を書いていると思いますよ」
「そうか……。トシには、無理ばかりさせてるなあ」
「そうでも無いと思いますよ?だってあの人は、近藤さんのお役に立てるのが何より嬉しく思う人ですから」
土方さんは近藤さんの為ならばと、なんでもしようとする人だ。
だから近藤さんの為にしている事を『無理なこと』とは思ってなんかいない。
喜んで色々してしまう人だなあと思っていれば、近藤さんが小さく笑った。
「すっかり、トシの小姓役が板についている。あいつのことを、よくわかってるじゃないか」
「そうですか……?」
そうなのかなと思いながら、彼の小姓役が板についているという言葉につい嬉しくなる。
「……そういえば、新選組にお世話になりはじめた当初は、私と千鶴は土方さんの小姓という名目だったんですよね」
「そうだな。まさか、こんなに長い付き合いになるとは、あいつも予想してなかっただろう」
京にいた頃を思い出して懐かしくなる。
最初はあんな怖い人の小姓だなんて……と思ったり、千鶴をとにかく守ろうと必死だった。
千鶴を守ることが出来れば、他のことはどうでもいいとも思っていたのに……。
何時からか、土方さんの事も気にかけるようになって、彼が何よりも心配になって。
千鶴と同じで守りたくて傍にいたいと思うようになった。
あの頃はまだ、こんなことになるなんて思ってもいなかった。
誰かが亡くなる事もなく、ずっと京での生活が続くとばかり思っていたのだ。
「……大丈夫ですよ、きっと。土方さんが何とかしてくれるかもしれませんし」
私がそう言いながら笑いかければ、近藤さんは少し寂しそうに微笑んだ。
「だがなあ、千尋君。俺は、それも酷じゃないかと思うんだ」
「酷……ですか?」
どういう意味なのだろう。
そう思い、近藤さんに問い返そうとした時だった。
ふすまが勢いよく開き、険しい顔の土方さんと島田さんが部屋へと飛び込んできたのだ。
「土方さん、島田さん……。どうかされたんですか?」