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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第11章 乞い求む【土方歳三編】


暫く野村君は黙ったまま建物を見上げていた。
だけどやがて、少し強ばったような笑顔を浮かべて私の方へと振り向く。

「……そうっすよね。局長は、あの土方副長が尊敬している方なんですから。きっとすぐに、元の局長に戻るに決まってますよね。すいませんでした、変なこと聞いて」

野村君はそう言い残すと、建物の傍から姿を消してしまった。
そんな彼の背中を見送りながら、私は野村君が不安になるのも仕方ないと思いながら建物を見上げる。

近藤さんはここに着いてからというもの、まるで別人のように覇気を無しくてしまっている。
部屋にこもりっきりになっていて、ずっと本を読み続けたり縁側で草花を眺めたりしている状態。

(でも、戦意を無くしてるわけじゃないと思う。近藤さんはただ、甲府での負け戦を引きずってるだけ……。そのうち気力を取り戻して、いつもの近藤さんに戻るはずよ)

そう心で呟きながらも、それは勝手に私がそう思いたいだけなのかもしれない。
なんて思ってしまい、私は近藤さんの部屋に視線をただ向けるだけだった。


ーー翌日ーー


「近藤さん、お茶をお持ちしました」
「ああ、千尋君。ありがとう」

机に湯呑みを置けば、近藤さんは本をめくる手を休めてからこちらへと視線を向けて笑顔を見せてくれる。
彼の優しい笑顔に思わず釣られて私も微笑んでしまう。

そして、私は近藤さんの笑顔を見ながら机に沢山の本が並べてあるのに気が付いた。
ここに来てから近藤さんはよく本を読まれているけれど、何の本を読まれているのだろうと興味が湧く。

「何の本をお読みになっているんですか?」
「ん?三国志演義に、清正記に……、軍記物の読み物ばかりだな。もう、暗誦できるくらい読み込んだんだが、何度読み返しても新たな感動があってなあ。子供の頃は、思ってたもんだよ。いつか関聖帝君みたいな立派な武将になって、自分ではない誰かの為に戦おうって」

懐かしそうにつぶやく近藤さんだったけども、その表情はやがて寂しそうな色を帯びる。

「……だが、願うだけでは名将にはなれんのだな。それに気付くのが、ちと遅かったようだ」
「……近藤さん」

彼はそう言いながら、本の表紙を軽く手のひらで叩いて文机の上へと載せる。
そんな近藤さんに私は笑顔を作って言葉をかけた。

「何を仰ってるんですか。まだ、これからじゃないですか」
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