第11章 乞い求む【土方歳三編】
「……良かった」
振り返り、彼の呼吸と顔色がずいぶん良くなっているのを見てそう呟いた。
すると土方さんは私を申し訳なさそうな表情で見つめる。
「……悪かったな、痛え思いさせちまって」
「このぐらい、全然平気ですよ。それにもう血も止まって、傷も塞がっていますから」
うなじに触れたら血もついていなくて、痛みもなにもなかった。
鬼の身体というのは本当に便利だなと思ってしまう。
「もし、また吸血衝動が出たら構わず私を呼んでください」
「……おまえの血を、あてにしろってのか?」
「はい」
何の躊躇いなく頷く私に、土方さんは苦笑いを浮かべていた。
「そういう言葉は、おまえにゃ似合わねえよ。んなこと抜かしてると、都合よく使い捨てられちまうぞ」
「土方さんになら、良いかもしれません」
「……何、言ってやがる」
私の言葉に土方さんは目を見開かせてから、直ぐに苦笑を漏らしていた。
でも私は別に土方さんになら使い捨てられても構わないと思っている。
浅ましいかもしれない。
でも彼にならと、私は本当に思ってしまっているのだ。
彼のためならば、使い捨てられても利用されても構わない。
❈*❈*❈*❈*❈*❈*❈*❈*❈*❈
ー慶応四年・四月ー
あれから私たちは、下総・流山にある長岡屋へと移動する事となった。
近藤さんは戦うことに乗り気ではない様子だったが、土方さんの必死の説得で、重い腰を上げてくれた。
新選組の隊士の方々は、会津行きの準備が整うまでここで調練を受けるという。
斎藤さんは市川という場所で、連隊に新式装備の訓令を受けているらしい。
山南さんと平助君の羅刹隊は、長岡邸には入れないということで、一足先に宇都宮経由で会津を目指しているとのことだ。
「千尋先輩、局長はどこですか?」
「あ、野村君。近藤さんなら部屋で本を読んでいらっしゃると思うよ。何か、あったの?」
「いえ、特に用事ってわけじゃないんですけど……」
野村君は何か、言いたげなような引っかかるような物がある様子で建物の方を見やった。
「……局長はもしかして、新政府軍と戦う気力をなくしてしまったのかなって」
「それは……。……そんなことないよ。近藤さんも、戦意を完全に無くしたわけじゃないと思うよ。だから、大丈夫だよ、野村君」