第11章 乞い求む【土方歳三編】
そう言うと、土方さんは私の背後に回った。
すると彼は私の着物の襟元に触れると、そのままゆっくりとくつろげる。
あらわになった肌に冷たい風が触れて、粟立ちそうになった。
土方さんは、あらわになった私のうなじにゆっくりと冷たい指で触れてくる。
その冷たさに驚いて、思わず身体が跳ねてしまうが彼はそれを気にせずに傷をつくる場所を指でなぞりながら探していた。
(擽ったい……)
擽ったさを感じていれば、やがて冷たい刃がうなじに押し当てられた。
そして音もなく刃は皮膚を切り裂く。
「っ……」
小さな痛みを感じて、声が思わず漏れそうになって耐える。
やがて、痛みを感じた所に生暖かいものが触れた。
「んっ……!」
ぬるっとした生暖かいもの。
それが土方さんの舌だと思えば羞恥心が湧くけれども、なんとか耐える。
土方さんは私の首に顔を埋めながら、息を粗げて溢れた血を啜り始める。
彼が血を飲むたびに、吐息が首筋にかかるのが擽ったい。
「っ……」
擽ったさと、初めてここまで男の人に近付かれた緊張で思わず身体をよじってしまう。
すると、土方さんはそれを許さないと言わんばかりに私の身体を背後から押さえつけた。
「……そのまま、振り返るんじゃねえ」
「はい……」
見られたくないんだろう。
羅刹となって血をすする姿を、私にも誰にも見られたくないに決まっている。
彼の発した言葉に込められた気持ちに勘づいて、私はゆっくりと瞼を閉じた。
(……鼓動が早くなってる。落ち着かなきゃ)
そう思っていても、鼓動は私の意志とは関係なく早くなっていた。
なんとかそれを落ち着かせようとしていれば、耳元で彼の低い声が響く。
「……すまねえな。今、俺が狂うわけにはいかねえんだ」
「分かってます。遠慮なく、私の血で良ければ飲んでください。私に出来ることなら、私が貴方に差し出せるものなら何でも差し出しますから……」
貴方の為なら、何でも差し出す。
それが土方さんの為に出来る唯一の事なのだから。
そう思っていれば、私の身体に回された土方さんな腕にゆっくりと力が込められた。
力強いけれども、私が苦しくならないように込められている力。
その腕に手を少しだけ添えて、私はまた瞳をゆっくりと閉じた。
暫くたって、土方さんは私から静かに身体を離して、感じていた彼の体温が消えてしまった。