第11章 乞い求む【土方歳三編】
「ガキみてえな約束の仕方だな」
そう言いながら、土方さんは小指を出すと私の小指と絡めてきた。
冷たい体温に少し驚いたけれども、私はぎゅっと小指で彼の小指を握る。
「嘘ついたら、針千本ですからね」
「お前は本当に飲ませてきそうだな」
小指同士でぎゅっと握り合う。
少ししてから彼の小指はゆっくりと去っていき、私はさっきまで彼と絡めあっていた小指を見つめる。
そして膝の上に手を下ろしていれば、土方さんはお茶を飲んでいた。
「そういえば……。今後の新選組の皆さんは、どうなさるつもりなんですか?」
「とりあえず、近藤さんに気合いを入れ直してもらって、北に行こうと思ってる」
「北ですか?」
「今の幕府は頼りにならねえが、東北諸藩が残ってる。会津、仙台が中心になりゃ、まだまだ戦えるはずだ。松本先生の手配で、流山に武器弾薬、そして人を集めてもらってるんだ。そこで皆と合流して会津に向かう」
「会津に、ですか……」
「ああ。仮に、江戸を薩長に取られたとしても、奴らはいずれ京に戻らなきゃならねえはずだ。そうなったら、すぐ江戸を取り戻して……」
そう言いかけた時だ。
土方さんは突然胸を押さえながら、その場に蹲ってしまう。
「土方さん!?」
急に蹲った事に驚いて、彼の肩に手を添えれば食いしばった歯の間から呻き声が漏れる。
「ぐっ……!く、うっ……!」
「土方さん!」
そして彼の髪の毛は雪のような白に染まる。
私が名前を呼べばかぶりを振って、声にならない苦痛を一人でこらえようとしていた。
この苦しみ方は前にも見たことがある。
吸血衝動の時に訪れる苦しみを耐えている姿なのだと、直ぐに分かった。
「……血、ですか?」
私の問に彼は何も言わない。
だけど、吸血衝動に襲われているのは明白であり、血が欲しいはず。
私は彼を見てから直ぐに彼の腰に差してある小太刀に手を伸ばす。
血を飲めば苦しみから開放される。
直ぐに血を飲ませなければと思い、鞘から引き抜こうとした瞬間、その手首を掴まれた。
「土方さん、なんで……なんで止めるんですか?血を飲まないと、ずっと苦しんでしまうんですよ。だから、この手を離してください」
土方さんは、苦しげな表情で私を見つめると首を軽く横に振った。
そして私の手首を握ると小太刀から離させる。
「……俺がやる。おまえは、じっとしてろ……」