第11章 乞い求む【土方歳三編】
「永倉さんたちから教わったことは、絶対忘れねえからな!呑み屋のツケの踏み倒し方とか、副長に叱られた時ごまかす方法とか、本人に気付かれない仕返しの仕方とか……」
「つまり、俺たちからはろくなことを教わらなかったって言いてえのか?いい態度じゃねえか、てめえ」
野村君の言葉に、永倉さんは引き攣らせた笑みを浮かべながら彼の頭を拳を押し付けてぐりぐりと動かしていた。
その光景に思わず笑ってしまう。
「うわああ、やめてくださいよ!私闘は切腹でしょうが!」
「俺たちはもう新選組隊士じゃねえんだから、局中法度は関係ねえんだよ!」
あまりにも何時もと変わらない光景。
だけどもう、こうして話をすることさえ出来なくなるとは思えずに、目頭がじわりと熱くなるのを感じた。
突然すぎる別れは何度も経験したけれども、その度に辛くて悲しくなってしまう。
本当なら引き止めたい。
原田さんにも永倉さんにも行ってほしくないけれども、二人はもう決めてしまったのだ。
それを引き止める権利は私にはない。
「それじゃあな、相馬、千鶴、千尋。戦が終わった後、お互い生きてたらまた会おうぜ」
「……はい。必ずお会いしましょう」
原田さんと永倉さんは、最後の最後まで優しい笑顔を浮かべてから私たちに背中を向けて歩いて行ってしまった。
「……行っちまったな」
「そうだな……」
それが数時間前の出来事。
あれから屯所内は静かになってしまい、寂しくなってしまった。
ずっと一緒にいた人たちと別れてしまうのは、誰でも寂しい。
それが尚更、新選組結成前からの付き合いである原田さんと永倉さんが居なくなるのならだ。
でも一番悲しい思いをしているのは、結成前からの付き合いである近藤さんや土方さんに斎藤さんのはず。
(それと……平助君と沖田さんも)
沖田さんは現在、労咳が悪化した為に千駄ヶ谷の離れで療養している。
京にいた頃からの隊士の方々か、一人また一人と目減りしていた。
「……お茶、持っていこう」
私は小さくそう呟いてから、掃除を終わらせると勝手場に向かってから土方さんのお茶を淹れた。
そして土方さんの部屋まで持っていき、ふすまの前で座ると声をかける。
「土方さん、雪村です。お茶を、お持ちしました」
ふすま越しに声をかけて、ふすまをゆっくりと開けてから部屋の中へと足を踏み入れた。