第11章 乞い求む【土方歳三編】
「……幕軍の劣勢」
今朝、土方さんたちがそう話しているのを聞いていた私はどうも気分が落ち込んでしまっていた。
そして落ち込んだ気分のまま、私は玄関の近くを掃き掃除をしている時……。
「あ、斎藤さん。これからお仕事ですか?お疲れ様です」
「……手が空いたら、副長にうまい茶でも出してやってくれ」
それだけを私に伝えると、斎藤さんは早足で歩いて行ってしまった。
彼の後ろ姿を見ながら、私は少しだけ眉を落としてから視線を地面へと下ろす。
斎藤さんは元々口数が多い方ではない。
だけども、最近はさらに口数が減って元気がないように見えた。
(やっぱり、あれが……尾を引いてるのかな)
数時間前の事だ。
原田さんと永倉さんが、この屯所から……新選組から出ていってしまったのである。
「新選組を離れるって……、お二人共、本気ですか?」
「ああ。さすがにもう、近藤さんにゃ付き合いきれねえよ」
「なんとか、考え直してはいただけませんか?」
「まだ、新選組には居てもらえないんですか?永倉さん、原田さん……。近藤さんも、先日のことはかなり反省されていますし」
私と千鶴に相馬君は出て行くと決めた彼らを、何とかして留めておけないかと思い話をしていた。
「反省したって言われてもな……。刀も銃もろくに扱えねえ素人隊士を増やされても、問題の解決にはならねえんだよ」
原田さんの言葉に、私は俯いてしまった。
彼らはもう留まってくれる気はないようで、本気で出ていってしまうのだと分かると辛くて寂しくてたまらなくて、俯いてしまう。
それは私だけじゃない。
相馬君も千鶴も寂しそうにしていて、つい黙ってしまう。
やがて、相馬君は少し震えた声で言葉を発した。
「……お二人がいなくなると、寂しくなります」
「俺たちだって、名残惜しくねえわけじゃねえさ」
「だけど、いつ死んじまうかわからねえ状況なら、自分で選んだ道を進みてえしな」
お二人の決意はやっぱり固いらしい。
それを悟った私たちはそれ以上は何も言えず、ただ彼らを見送る事しか出来なかった。
そしてその日の夕刻、私たちは彼らを見送るに外に出ていた。
「んじゃ、俺たちはそろそろ行くからよ。近藤さんや土方さんのこと、よろしく頼むぜ。……まあ、土方さんの事は千尋に任せるのが一番かもな」
「……任せてください」
「はい、お任せください」