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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第11章 乞い求む【土方歳三編】


「……近藤さん?」

雨の勢いが増していく中でも、近藤さんは立ち尽くしていた。
だけど彼は木陰に隠れることもなく、かといって雨に濡れた頬を拭わずに小さく呟く。

「……俺は今まで、一体何をしてたんだろうな。今日の戦で、俺を信じてついて来てくれた若い連中をたくさん死なせてしまった。その上、昔からの付き合いのおまえを、羅刹にしてしまうなんて……」
「……近藤さん、いきなり何を言い出すんだ?誰も、あんたのせいだなんて思ってねえよ。どんな名軍師だって、様式化された軍を相手に勝つことなんざできねえ」

勢いを増した雨が二人をどんどん濡らしていく。
冬の冷たい雨は、身体の体温を徐々に奪っていくなかで彼らは動かなかった。

「俺だって鳥羽伏見の戦いじゃ、源さんを……、山崎を死なせちまってるんだ。負けちまったのはしょうがねえ。大事なのは、これからどうやって勝負を引っくり返すかってことだろ?それに、俺は別に羅刹になったことを後悔なんてしてねえよ。むしろ、人間を遥かに超えた力を手に入れられて、それをあんたの為に役立てられる。嬉しくてしょうがねえさ」

雨で濡れていく土方さんが、まるで泣いているように見えてしまった。
そして近藤さんも泣いているように見えて、彼はしばらく黙ったまま土方さんの顔を見つめている。

だけどやがて、顔を上げた。
泣き出しそうな顔で、彼は柔らかい笑みを浮かべる。

「……すまん、弱気になってしまったな。今の言葉は忘れてくれ。……江戸に、戻ろう」


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ー慶応四年・三月ー


その後、私たちは江戸に戻り見地の屯所である旗本屋敷で千鶴と相馬君、そして永倉さんたちと合流した。
千鶴と相馬君は途中で新政府側の人間たちと遭遇しそうになり、私たちとは違う道で戻っていたらしく、それを聞いた時にほっとしてしまった。

そして、初めて負け戦を経験した近藤さんの落胆は、私たちの想像を超えるものだったらしい。
屯所に戻ってきてからも、疲れたため息をひっきりなしにこぼすようになっていた。

幕軍の総大将なる慶喜公は、朝廷からの追討例を受けて上野の寛永寺にて謹慎している。
朝廷も、薩摩や長州の重鎮たちの手により動かされるようになり、いよいよ幕府側の劣勢が確実になり始めた。
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