第11章 乞い求む【土方歳三編】
「……ふうっ」
すると、敵の姿が目の前から居なくなった土方さんはようやく息をついた。
「土方さん、大丈夫ですか?」
「何ともねえ。それよりも……お前、口元に血が着いてるじゃねえか」
「あ……天霧に腹部を殴られた時に少し臓物が傷付いたみたいで、その時に少し血を吐いただけです」
「吐いただけ……じゃねえだろうが。大丈夫なのか?」
私の言葉を聞いた土方さんは眉間に深く皺を刻んだ。
そんな彼に私は思わず苦笑を浮かべると、彼は更に機嫌悪そうな表情をする。
何で私が笑ったのか分からないと言いたげに。
「私は、鬼ですから。直ぐに治ってしまうんですよ」
「……そうか。それで、近藤さんはどうした?」
「局長なら、あちらに」
機嫌悪げな表情をしながら、近藤さんを探す土方さんに斎藤さんはそう伝えた。
そして斎藤さんの言葉を聞いた土方さんは急いで近藤さんに駆け寄る。
「近藤さん、無事か!?どこか、怪我してねえか」
近藤さんは返事をしなかった。
ただ、眼前にいる土方さんを見つめながらまるで魂が失せてしまったようにその場に立ち尽くしている。
彼の瞳には、真っ白な髪に赤い瞳の土方さんが映っている。
羅刹となってしまった彼の姿が……。
「トシ、その姿……」
「あ……」
近藤さんのその一言で、土方さんは彼が何を言わんとしているのか悟ったようだ。
ばつが悪そうに近藤さんから目を逸らしていた。
(そうだ……近藤さんは知らなかったんだ。土方さんが羅刹となってしまったことを)
狼狽えたように視線を逸らしたままの土方さん。
そんな彼に、近藤さんは小さい声で問いかけた。
「なったのか?羅刹に……」
「……ま、まあな。しょうがねえよ。これも、新選組を勝たせる為だ」
土方さんは一見、平然としているような様子を見せていた。
だけど、近藤さんの事を見ながら言葉を口にすることは出来なかったみたいで、ずっと近藤さんから視線を逸らし続けている。
そんな時だった。
空からは雨の粒がぽつぽつと落ち始め、身体をゆっくらと濡らしていく。
「……おっと、降り出してきたか。さっさと江戸に戻って、体勢を立て直さねえとな」
「……そう、ですね。風邪をひく前に急ぎましょう、近藤さん」
私はそう言ってから近藤さんの腕を軽く引っ張った。
だけど彼は、まるで歩き方を忘れてしまったようにその場に立ち尽くしている。