第11章 乞い求む【土方歳三編】
目を見開かせた土方さんは、鬼迫迫る形相で刀を大きく振りかぶる。
「くっーー!」
天霧はすんでんの所で白刃を受け止める。
だけども、土方さんは受け止められても何度も何度も刀を振りかぶっていた。
一進一退の攻防が繰り返され、痛いぐらいの張り詰めた空気が辺りに立ち込めている。
そしてどちらも、まるで疲れを感じていないかのような動きを見せていた。
土方さんの顔には笑みが浮かんでいるぐらいだ。
(……土方さんが、土方さんじゃないみたい)
辺りに漂う殺気と、血と脂の匂いを楽しんでいる火のような土方さんの笑みに目を見開かせる。
「まさか、私と互角に渡り合える羅刹が存在したとは……、予想外でした。……その比類なき力、一体何に使うつもりです?」
「何、だと?……大切なもんを守る為に決まってるだろ。力を手に入れてえって思う理由なんて、他にあるか?」
「大切なもの……、君にとっては徳川幕府ですか?」
「……そうじゃねえ。もっと別の、幕府とは比べ物にならねえくらい大きくて、大切なもんだ」
土方さんの発した言葉に、天霧は無言のまま目を閉じる。
そして天霧から発せられていた殺気は、ゆっくりと消えていくのを感じた。
土方さんもまた、動こうとはしない。
何故急に天霧は殺意を消したのだろうと思っていると、誰かに肩を掴まれた。
「っ!?」
「安心しろ、俺だ」
「……斎藤さん」
驚いて後ろを振り向けば、そこには斎藤さんの姿があって思わずほっとした。
そして彼は天霧と土方さんの方へと視線を向ける。
「あの鬼からは、殺気が消えているな。……戦いは既に終わったか」
彼の言葉を聞いてから、私もまた土方さんと天霧の方へと視線を向ける。
土方さんは未だに白髪と赤眼ではあるが、刀を鞘に納めていた。
天霧はどうして急に殺意を消したのだろう。
そう、疑問に思っていれば天霧は閉じていた瞼をゆっくりと開いた。
「……鬼である我々は、本来、人の世界に関わるべきでは無い。羅刹となった君も、歴史の表に出てはいけない生き物です」
「ああ、そりゃわかってる。俺は別に、歴史に名を残してえとか、大それた望みは抱いちゃいねえ」
「……わかっているのなら、後は、君に任せます」
「何だと……?」
「風間は、我が強く気位の高い鬼だ。以前屈辱を味わせた君を、絶対に許しはしないでしょう」