第11章 乞い求む【土方歳三編】
聞き慣れた声が聞こえた。
私は驚きで目を開ければ、目の前で血飛沫が舞い、肉を切り裂く音がこだまする。
「君はーー!」
「……甲府で戦う相手は新政府軍だけかと思ってたが、ついでに鬼退治させられる羽目になるとは思わなかったぜ」
「……土方さん」
目の前には、土方さんが立っていた。
しかも髪の毛は白髪に、瞳は赤へ染まっている羅刹化をした彼がいたのだ。
「……先日の、風間との戦闘から何も学び取っていないのですか?君たち羅刹は、まがい物の鬼です。それがいくら力をつけたところで、本物の鬼にかなうはずがない」
「そりゃあ、やってみなきなわからねえだろ。剣術三倍段って知ってるか?刀を持った敵を徒手空拳で倒すにゃ、相手の三倍の実力が必要なんだ」
「……あくまでも、修羅の道を歩み続けますか。いいでしょう、相手をしてあげます」
天霧は軽く両手を合わせ、一礼をするような動作を見せると身構えた。
そこへ土方さんの持つ、和泉守兼定が凄まじい剣速で打ち込まれる。
「むんっーー!」
軽々と天霧はその動きを見切ると、素手で白刃をさばいてから身を交わした。
「何っ……!?」
そして直ぐに、土方さんの空いた脇腹へと蹴りを叩き込む。
蹴りの威力で土方さんは後ろへと下がり、痛みのせいか顔を歪ませていた。
「ぐっーー!」
背中を痛みで丸めていた土方さんだが、羅刹となり衝撃に強くなっているのか、それおも気合いで痛みを克服したのか……。
土方さんは直ぐに体勢を立て直していた。
そして、素早く動いて天霧との距離を詰める。
天霧はその素早い土方さんの動きに目を見開かせて、避けようとしたがそうはいかなかった。
「うぐっ……!」
土方さんの刀が天霧を突き刺した。
そして土方さんの顔は天霧の血で真っ赤に染まり、彼は突き刺した刀を引き抜く。
だけど天霧は鬼だ。
突き刺された傷はすぐ様に塞がり、傷跡は跡形もなく消えてしまう。
「……そういや、鬼ってのすぐに傷が治っちまうんだったな。心臓を突かなきゃ殺せねえってのも、面倒なこった」
土方さんの白い刃先が、こびりついた血で一層怪しくおぞましくその刀身を輝かく。
「だが、あんたの動きはもう見切ったぜ。……勝てねえ相手じゃねえ」
返り血を全身に浴びている土方さんの姿は、さながら修羅のようだった。
彼の姿を見てぞくりと背筋が冷えた感覚が襲ってくる。