第11章 乞い求む【土方歳三編】
「雪村君!」
咳き込めばぽたぽた……と地面に何か赤黒い物が落ちていた。
痛さに顔を歪ませながら口元に触れると、手にはべっとりと赤黒い物がついて、直ぐにそれが血だと確信する。
息が凄くしにくい。
腹部がとてつもなく痛い、臓物が傷付いたのかもしれないと思いながら立ち上がろうとしても、痛さで立ち上がることが出来なかった。
「君は暫く、そこで大人しくしておいてください。あとで、苦しまないように死なせてあげますので」
天霧はそう私へと呟くと、近藤さんへと視線を向けた。
「……か弱き者の為に、勝ち目のない戦いに挑む。そういう無謀さは嫌いではありません」
すると近藤さんが天霧へ目掛けて刀を振り落としたけども、それを天霧は滑らかな動きで交わした。
そして天霧は左手の指先で刃を掴むと、近藤さんの鳩尾に素早く手刀を叩き込む。
「くぶっ……!」
「こ、ん……どうさん……」
そして天霧は、前のめりに突っ伏しかけた近藤さんの身体をひっくり返し、その背中を思いっきり地面に叩きつけた。
「……肺袋を思い切り叩きました。しばらく、呼吸ができないはずです」
地面に倒れている近藤さんわ見下ろしていた天霧は、すぐに私へと視線を向ける。
私は木を支えにして何とか立ち上がりながら、天霧を睨みつけた。
(痛い、苦しい、痛い……けど、殺されるわけにもいかない。近藤さんも殺させたりしない)
だって、土方さんと約束した。
必ず生き延びて会うと、彼と約束したのだから。
次は絶対に彼との約束を破らないと誓ったのだから、死ぬ訳にはいかない。
「さて、次は君です。雪村千尋。……悪く思わぬよう」
「……悪いけれども、私は死ねない。そう、誓いをしてるから」
「そうですか。ですが、君に死んでもらわなければ、困るのですよ」
素早く動いた天霧は直ぐに私の目の前に姿を見せる。
拳が頭上にあり、振り落とされると思い動こうとしたけれども身体に痛みが走り、思い通りに動けなかった。
そしてそんな私に拳が振り落とされた。
「うっ、ぐっーー!!」
避けることも出来ず、重い拳で地面に叩き付けられた。
背中に鋭く走り続ける痛みに、歯を噛み締めながら何とか立ち上がる。
「……我々の力量の差は、先程のでよく理解できたはずですが、まだ、あがくつもりですか」