第11章 乞い求む【土方歳三編】
刀身を見つめてから、視線を近藤さんへと向けた。
彼は今、天霧から狙われている訳じゃないから恐らく今は命を狙われる危険性は無いはず。
「近藤さん、逃げてください。今狙われているのは貴方ではなく、私ですので……逃げてください」
「し、しかしーー!」
「早く!もしかしたら、新政府軍の人間が近くにいるかもしれません!それに、新選組の為にも土方さんの為にも近藤さんは生きてくださらないと!」
近藤さんは私の言葉に絶句しながらも、私を見下ろし続けていた。
逃げてくれるかなと思っていたけれども、彼はそうはせずに腰に差した刀を抜いたのである。
「近藤さん……!?」
「……どんな理由があろうとも、女子供を見捨てて逃げるなど、武士のすることではない」
何で、この人達は逃げてくれないんだろう。
井上さんもそうだけど、私を見捨てれば自分の命は助かるというのに、何で私を見捨ててくれないのか分からない。
人間は自身を優先する生き物だって何度も、何度も父様と母様から聞いていた。
なのに何故、新選組の人達は自分を優先せず、我が身を優先してくれないのだろう。
(なんで……)
戸惑いと焦りと色んな感情が溢れていく。
そんな中で、近藤さんは無言のまま、天霧との距離を詰めていた。
「……俺は、敗残の将だ。無謀な作戦で、たくさんの部下を死に追いやった。そんな俺が、女性を守って死ぬことができるんだ。武士としてーー、男としては、最高の死に方じゃないかね」
「そんな……近藤さん!辞めてください!!」
何で、井上さんのような事を言うの。
私の目尻が一気に熱くなり、瞳に涙が滲み始めるのが分かった。
「新選組局長近藤勇、参る!やぁあああああっーー!」
近藤さんは白刃を手に猛然と天霧に挑みかかる。
「駄目です、近藤さん!!」
私は慌てて近藤さんへと向かって走り出し、刀を天霧へと向けて投げ放つ。
だけども、天霧はそれを意図も簡単に弾き飛ばすと私へと間合いを素早く詰めてきた。
目の前に天霧の顔がある。
そして、彼の拳が動いたのが見えたと思った瞬間、腹部に強烈な痛みが走った。
「かっ、はっ……!?」
天霧の拳が腹部に入った。
そう気が付いた時には既に、私は殴り飛ばされていて木に勢いよく体が衝突する。
「げ、ほっ!!げほっ、うっ、ごほっ!!」
痛さや言葉にならない感覚に襲われる。