第3章 巡察【共通物語】
この隊士さん、かなり執拗い人間だと確信した。
怪しむように私たちを見ていたかと思えば、突然小馬鹿にするように笑う。
「ここは、おまえ達のような剣の腕も才覚もなさそうな者達が、うろうろしていいところではないんだがな。もう一度聞く。どうやって、あの二人に取り入った?」
「いい加減にしてください!私たちは別にあのお二人に取り入ったわけではありません。そこまで疑うのでしたら、お二人に直接お伺いください!!」
流石に怒りを感じた。
私は目の前の彼に怒鳴るように声を張り上げ、千鶴と彼の間に割って入る。
すると、彼は私の態度が余程気に食わなかったのだろう。
眉間に皺を寄せて、声を私と同じように張り上げた。
「この武田観柳斎に、そのような態度を取るか!」
そう言うと、武田さんと自身の名前を言った彼は私へと手を伸ばしてこようとした。
だが、手を掴まれる前にある人の声がそれを静止させた。
「おい、武田!こんなところで何をしている?」
その声は土方さんだった。
すると武田さんは伸ばしていた手を元の位置に戻し、私は土方さんの姿を見て、何故かほっとしてしまう。
「これはこれは土方副長……。なに、近藤局長に少々用がありましてね」
「ほう……俺は何も聞いちゃいないが」
「最近お姿が見えない山南総長の代わりに、相談に乗って欲しいと言われているのです。しかし……近藤局長もいらっしゃらないようなので、私はこれで失礼します」
彼はそう土方さんに説明をすると、広間から立ち去ろうとしたがその足を止めた。
「……ところで、土方副長。その者たちを小姓に取り立てたというのは本当ですか?」
「ああ…少しばかりわけありでな」
「承知しました。わけありならば、詳しく聞くのはやめておきましょう。ですが、あまり同じ郷里の者ばかりを周りに囲うのはいかがなものかと思います。では、失礼」
武田さんの姿がにえるまで、私は千鶴を自分の背中に隠していた。
そして彼の姿が消えるまで警戒をしていたが、やっと武田さんの姿が無くなると緊張の糸が解けたように息を吐いた。
「おい、雪村たち。屯所の中を勝手に歩くんじゃねえ!」
「す、すみません!」
「はい!……すみませんでした」
突然の土方さんの怒号に、私と千鶴は思わず背筋を伸ばして謝罪をした。