第11章 乞い求む【土方歳三編】
「……ここを通ると思っていました」
「あ、天霧九寿……!?」
木陰から現れたのは、風間と一緒にいて薩摩藩に加担している鬼の天霧だった。
こんな時に会いたくもない自分に会ったと、私は顔を歪めていれば、隣にいた近藤さんが一歩前に出る。
「……雪村君。彼は確か、薩摩藩の手の者だったな」
「はい……」
「これ以上逃げ切るのは、どう考えても無理だろう。……ここは潔く、負け戦の責任を取って腹を詰めたい。そちらの御仁、介錯を願えるか」
「何を……何を仰っているんですか!?」
近藤さんのまさかの言葉に、私は思わず目を見開かせた。
腹を詰める、介錯を願う……それはつまり、近藤さんはこの場で死のうとしているということ。
それだけはさせてはいけないと私は慌てて彼の腕を掴んだ。
「貴方を死なせる訳にはいきません!そんなの、絶対に許しません!」
すると、天霧は私と近藤さんに交互に視線を向けてやり取りを見つめていた。
だがやがて、静かにそして低い声で呟く。
「私は薩摩藩の為に働いてはいますが、新選組の方々を斬れとの命令は受けておりません。……用があるのは、そちらの娘だけです」
「……え?」
「君と、あの土方という若者は、風間を狂わせる。雪村千鶴の方はまだ良いとして、君だけはいけない。藩の意向を無視し単独行動ばかりを起こす彼に、薩摩藩も手を焼いています」
天霧の言葉に、じわりと背中に嫌な汗が浮かぶ。
空気が重くなっていて、天霧の瞳には明確な殺意が宿っているのに気が付いた。
「だが我々としても、今、薩摩藩と手を切るわけにはいかない。ですから……雪村千尋。君には、ここで死んでもらいます」
「……っ!」
身構えた天霧からは殺意が漂い、思わず息を飲んだ。
天霧の強さは知っているし、私が適う相手じゃないのもよく分かっている。
相手は素手、私は刀を持っているからといっても勝つことは恐らくできない。
だからと言って、刀を抜かないという選択はない。
私はゆっくりと腰に差した刀を抜いてから、月明かりで照らし出される太刀を見つめた。
(父様から頂いた刀……)
私が持つ刀は死んだ父様から頂いた、【顕明連】と呼ばれる雪村の分家の当主が代々持つ刀。
そして父様の形見とも呼べるものだ。
(父様……どうかお願いします。近藤さんを逃がすまでの間……力を、私にお貸しください)
