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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第11章 乞い求む【土方歳三編】


声をかければ、相馬君と千鶴はこちらへと振り向く。
そんな彼らに私は言葉を続けた。

「私は近藤さんを連れて、江戸まで撤退する。千鶴と相馬君は……」
「俺は、暫くここにいて他の隊士に撤退を伝えます。撤退を伝えてから、近藤局長に追いつこうと思っていますので、雪村先輩は姉君を連れて三人で江戸に向かってください」

相馬君の言葉に、千鶴の目が揺れた。
そんな彼女の瞳の揺れに気が付いた相馬君は、直ぐに目を見開かせてから渋い表情をする。
暫く彼は考える素振りを見せながら、何かを悩んでいたがらそれから私へと申し訳なさそうに話し出した。

「………大人数で撤退していたら、相手に勘づかれそうですので、雪村先輩は俺が一緒に後から撤退という形でもいいでしょうか」
「………うん、分かった。お願いね……千鶴を」
「はい!」
「それじゃ、千鶴。あとで必ず落ち合おうね」
「うん!」

私が近藤さんの手を引いて歩き出す。
そして近藤さんの方へと視線を向ければ、彼は痛ましい眼差しで山道に折り重なって倒れている隊士たち、そして劣勢に置かれる自軍を見つめていた。

近藤さんは唇を強く噛み締めると、涙ぐみながらまだ戦っている隊士の方々の方へと深く頭を下げている。
すると、そこへ最前線にいた斎藤さんが戻ってきた。

「撤退の準備は整ったか?……雪村姉と相馬はどうした?」
「他の隊士の方々に撤退を知らせてから追いつくと……」
「そうか、分かった。……では、行くぞ」
「はい!近藤さん、行きましょう」
「あ、ああ……」

その後、私と斎藤さんは近藤さんの手を引きながら夜の森の中を歩き続けた。
何度か後ろを振り向いて、相馬君と千鶴が追いつかないかを確認するけれども、二人の姿はない。

(……違う道から、行ってたりしてるのかな?それか、追いつくのに時間がかかってる?)

少し不安に感じながらも、私は視線を真っ直ぐに向けながら歩き出す。

「もう少しで、八王子に着きますから。……しっかりしてください、近藤さん」
「……ああ」

負け戦を経験したからなのか、近藤さんの声には生気を感じられなかった。
足取りも重く、彼の辛そうな表情を見てから胸が傷んでしまう。

「……隊士たちを、たくさん死なせてしまったな」
「……今、それを言っても仕方ありません。様式化された軍相手だと、かなわないって土方さんも仰っていましたから」
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