第11章 乞い求む【土方歳三編】
だけど、やがてため息を吐くと言葉をひとつ吐き出した。
「……そこまで言うんなら、おまえに命令を下す。新選組隊士の一員として、な」
「はい!」
彼の言葉に嬉しくて、つい笑顔になりそうになって慌てて頬の内側の肉を噛んだ。
そして背筋を伸ばしてから彼からの命令を待つ。
「おまえと、姉に近藤さんの護衛役を命じる。常に局長に付き従い、その役に立て」
「はい!この雪村千尋、命に代えても、局長をーー」
命を代えても、局長を守ります。
そう言うとしたけれども、その言葉は土方さんによって遮られた。
「ーーただし条件がある。絶対に、死ぬな」
「……え」
その言葉は、鳥羽伏見の時も聞いたものでつい驚いてしまった。
「盾になろうなんて馬鹿なことは考えなくてもいい。俺はおまえに、死ねなんて命じる気はねえ」
そう言った後、土方さんは甲府城の方角を仰ぎ見ながらも言葉を続けた。
「……今回の敵が、新政府軍に尻尾を振った寄せ集めの連中なら、俺たちでも何とか戦えるかも知れねえが、薩長の奴ら相手じゃ、どうやったって勝てねえ」
土方さんの目が、甲府城から私へと移る。
厳しい表情をしているけれども、その瞳は少しだけ揺らいでいた。
焦り、心配等の色んな感情が見え隠れしている。
彼がここまで色んな感情で瞳を揺らしているのは珍しい。
そう思いながら、私は彼の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「……なるべく早く戻るつもりだが、俺が帰ってくる前に何かあったら、斎藤と一緒に近藤さんを逃がせ。もちろん、おまえが盾になる必要はねえ。一緒に逃げろ。……絶対に死ぬんじゃねえぞ」
「もしかして私、そんなに信用がないですか?」
彼の言葉に思わず苦笑を漏らした。
何度も念押しするように【死ぬな】と言われてしまい、そんなに私があの時死のうとした事を根に持っているのかなと思ってしまう。
「当たり前だろう。死ぬなと言ったのに、俺が居ない所で自決しようとしたんだからな」
「……分かりました。死にません、貴方のいない所では絶対に」
そう言うと、彼は小さく笑う。
「……おい、おまえ。その刀を少し抜いて持て」
「刀をですか……?」
唐突な言葉に、少し戸惑いながらも言われた通りに刀を持ってから少しだけ抜いた。
太陽の光か刀身に当たり、鈍い光を放っていて少しだけ眩しく感じる。
