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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第11章 乞い求む【土方歳三編】


「ま、久々の故郷だしな、偉くなった姿を見せて回りてえんじゃねえの?久しぶりに、嫁さんと娘にも会いてえだろうし」

京にいた頃に聞いたけれども、近藤さんには奥さんも娘さんがいる。
愛妻家と言わんばかりに、近藤さんは奥さんのお話をされている時もあったし娘さんにも会いたいと言われていた。

(会うのは久しぶりだから、話が弾んでいるのかな……)

だけども、永倉さんは苛立った様子を見せていた。
近藤さんが戻って来られてから、永倉さんは近藤さんに不服があるような態度を見せることが多くなっている。

「これから戦なんだぜ?そんなことしてる場合じゃねえだろ」
「……八王子に、入隊希望者が何人かいるらしいんだ。その検分もしなきゃいけねえからな。新入りの隊士と打ち合うには、酒酌み交わすのが一番だろ?」

すると、永倉さんの様子を見兼ねた土方さんがこちらに来てから彼を宥めるように言葉を発した。

「まあ、そりゃそうだけどさ……」

土方さんの言葉に納得したような、してないような永倉さんはそれ以上は何も言わなかった。
そんな不満そうな永倉さんを尻目に、土方さんはぼそりと小さな声で呟く。

「……金ばら撒いて接待しなくても隊士が集まってくるんなら、近藤さんにあんな真似させなくても済むんだがな」
「……土方さん」

彼の言葉に胸が小さく傷んだ。
京にいた頃は名を馳せていた新選組だけども、鳥羽伏見での敗報は江戸にも確かに伝わっている。

負けた部隊にそうそう入ろうとする人はなかなかいない。
だからこそ、お金やお酒を使って入隊希望者の歓心を買って人を集めなければいけないのだ。

(それは、決していい気分になるものじゃない……)

だからこそ、土方さんは渋い表情をしているのだろう。
そう思っていた時であった。

「……副長、お知らせしたいことが」

向こうから斎藤さんが慌てた様子で走ってきたのだ。

「何だ?どうかしたか」
「どうやら、甲府城には既に敵が入っているようです」
「ーー何だと!?伝令だ!すぐに、近藤さんを呼んで来てくれ!」
「は、はい!」

土方さんの言葉を聞いた相馬君が、慌てて近藤さんを呼びに向かった。
そして伝令を受けた近藤さんは、ようやく本隊に合流してくれた。

だけど甲府城は既に敵の手に渡ってしまっているという情報は、新入りの隊士の方々をかなり動揺させたらしい。
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