第11章 乞い求む【土方歳三編】
そして、私の視線は土方さんの洋服へと向く。
黒を基調ときた雅な雰囲気のものであり、決して派手では無い物。
彼に良く似合う作りをしていると思いながら、思わず土方さんを見つめてしまった。
「どうした?俺の着方に、どこかおかしなところでもあるか」
「えっ……あ、いえ!!全然!全く!!」
「……おかしな奴だな」
土方さんは私を見ると、小さく笑った。
その笑みを見た瞬間、思わず私は彼から顔を逸らして俯く。
顔が少しつづ熱くなっているのが自分でも分かり、両頬に手を添えながら視線を彷徨わせた。
ふと、視線を彷徨わせていれば千鶴と相馬君の姿が目に入った。
千鶴はじっと相馬君の事を見ていて、それに気がついた彼が戸惑ったように声をかけている。
「先輩、どうしたんです?もしかしてこの格好、どこかおかしいですか?」
「えっ?その……なんでもないの。別人みたいだから、少し驚いちゃって」
「別人って……、大袈裟ですね。着ている物が違うだけなのに」
千鶴の目元が赤く色付いているのに気が付く。
それにくすりと笑みを浮かべていれば、近藤さんの姿が目に入る。
彼は変わらず着物なので、思わず声をかけてしまった。
「近藤さんは洋装じゃないんですね」
「どうも異国の服は窮屈そうでな……。あの靴というのも、歩きにくくて仕方ない。それに、やはり武士というのは、袴に刀をさしていないとしまらん気がしてな」
「……あんたは、そのままでいいんだ。前線に出るわけじゃねえし、陣中にどっしり構えててくれりゃいい。あんたの存在自体が、隊士にとって支えになるんだからな」
「そうか?そこまで言われると照れてしまうが……」
近藤さんは土方さんの言葉に頬を赤く染めていた。
そんな近藤さんに思わず笑みを零していれば、彼は直ぐに表情を変える。
「それでは、出かけるぞ!甲府城に、いざ!」
そして新選組は【甲府鎮撫隊】と名を改めて、八王子経由で甲府へと向かう事となった。
道中、近藤さんは故郷に錦を飾りたいということで、彼と新選組は別行動をとる事になった。
だが、それを良しと思わない者もいた。
「……近藤さんは、どうしてるんだ?見当たらねえが」
「局長でしたら、まだ本隊と合流できていないようですが……」
「まだ追いついて来ねえのか?いつまで宿で酒盛りしてるつもりだよ」
