第11章 乞い求む【土方歳三編】
「い、います……多分」
「多分だあ?なんだ、その煮えきれねえ答えは」
「い、今まで想い人なんて出来なことなかったからよく分からないんです!!」
土方さんが想い人なんだと思う。
だけど、本当に今まで想い人なんて出来たことなかったのでよく分からないのだ。
彼の傍にいたい、彼のお役に立ちたいという気持ちを土方さんに持っているのは【恋】というのだろうか。
土方さんを想い人だと思っていいのか分からない。
「そ、それより!この髪の毛どうします!?」
話題を変えようと思い、私は慌ててそう質問する。
だってこのまま、あの話題を続けていれば私の心臓が持たない気がしたから。
「そうだな……。一房ぐらいを手元に残しておくか。あとは処分してくれ」
「分かりました。じゃあ、残りのものは処分してきますね!失礼しました!」
逃げるように、私は髪の毛を集めていた布を手に持ってから部屋を飛び出した。
部屋で彼がある事を呟いたのも気が付かずに。
「あいつの想い人は、誰なんだろうな……」
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ー慶応四年・三月ー
甲府へと向かう朝を迎えた日。
私と千鶴は広間の方へと向かえば、広間の中からは話し声が聞こえてきた。
かなり、朝早い時間帯だけども、もう皆さん起きているんだと驚いてしまう。
「皆さん、もう起きていらっしゃるんですか……」
「……あれっ?」
広間に入った瞬間、私と千鶴は固まってしまった。
中には見慣れない服装の人達が集まっていて、驚きで目を白黒させていれば声をかけられる。
「あれ、千鶴ちゃん、千尋ちゃん。ずいぶん早いんだな」
「その姿……、永倉さんですよね!?」
「え、永倉さん!?ど、どうなさったんですか、その服装!?」
何時もの着物でなく、洋装の姿をされた永倉さんに私と千鶴は驚愕してしまった。
よく広間内を見れば、見知った方々は何時もの着物姿ではなく、見慣れない洋装を身につけている。
もちろん、土方さんもだった。
「……副長の指示だ。今日から戦の時は洋装にすべし、とな」
「……敵も全員洋装だからな。勝つ為には、こっちの方が都合が良さそうだ」
「斎藤さん……髪の毛、斬られたんですね。って、もしかして昨日土方さんが私に髪の毛を切らせたのって」
「ああ。この為でもあるな」
髪の毛が長かった方々は、土方さんのように短く切り揃えている。
