第11章 乞い求む【土方歳三編】
「私は、鬼なんですから平気なんです。傷なんて、直ぐに塞がりますし」
「関係あるかよ。鬼だろうが何だろうが、おまえが女だってことに変わりはねえ」
私の言葉に土方さんは眉間に皺を刻みながらも、血をすすっていた。
熱く柔らかい舌が傷口に触れる度に、ぴりっとした痛みがあって思わず息を飲む。
やがて、徐々に土方さんの息遣いが血を飲む前とくらべで明らかに楽なものへと変わっていた。
そして土方さんの手が私の手首から離れて、私は自分の指先を見る。
(傷は……塞がってる)
傷口は小さいものだったから、もう塞がっていた。
そして私は指先から視線を土方さんへと向けて、頭を下げた。
「すみません、余計な真似をしてしまい……」
「いや……」
私が謝罪すると、土方さんは軽く息をついた後に首を左右に振った。
髪と瞳は元の色へと戻っていて、呼吸も楽なものになっていて、吸血衝動が落ち着いたのだと確信する。
「……痩せ我慢してる場合じゃねえってことは、俺もよくわかってるんだ。近藤さんを負けさせねえ為にゃ……化け物にでもなるしかねえんだよな」
「土方さん……」
彼の言葉に何も言えず、私は畳へと視線を落とすだけだった。
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ー慶応四年・二月ー
その後も土方さんは激務をこなし、機会を見つけては幕臣の方々との会談を重ねていた。
その最中、新選組には旗本屋敷が屯所としてあてがわれ、全員がそこに移る事になった。
土方さんは、今も羅刹の毒と忙しさで相当辛い思いをしているはず。
それなのに近藤さん戦わせてあげたい、勝たせてあげたいという一心が、土方さんを突き動かしていた。
そして、ある日のことだった。
「皆、心配かけてすまなかったな。怪我の調子は、すっかり良くなったぞ」
「お帰りなさいませ、近藤局長!」
「俺たち、ずっとこの日が来ることを信じてしましたよ!」
「大袈裟だな。……だが、ありがとう。俺も、こうして皆と再び会うことができてうれしいよ」
近藤さんが、怪我から復帰されて戻ってこられたのだ。
「……さて、我々の今後の行動についてだが、まずは甲府に向かい、そこで新政府軍を迎え撃つこととなった!御公儀からは既に、大砲二門、銃器、そして軍用金を頂戴している!是非とも手柄を立てねばな!」