第11章 乞い求む【土方歳三編】
土方さんの性格はこの四年でよく理解しているつもりだ。
彼の性格なら、たとえ体調が悪くともそれを表に出そうとはせず、一人で苦しんでなんとかしようとするはず。
「くだらない事じゃありません!」
こんなに苦しんでいるのに、くだらない事だなんてあるわけない。
吸血衝動は初めて見るけれども、こんなに苦しむものだなんて思わなかった。
(そうだ、薬……)
家で調合した薬なら、恐らくこの苦痛は和らぐはず。
だけど山南さんは、一時しのぎでしかないと言っていた事を思い出して悩んでしまった。
(薬が一時しのぎなら、血を与えたほうがいいの……?)
だけど、血を飲むことを土方さんは望んでいるのだろうか。
一瞬だけ迷ったけれども、私は直ぐに迷いを捨てることにした。
最善の方法ではないかもしれない。
だけども、これ以上は土方さんに苦しんでほしくなかった。
少しでも彼の苦しみを和らげる為なら、彼の役に立てるならと、無言のまま刀を抜き取る。
「おい、何しやがる!?」
刀の切っ先で、少しだけ指を傷つけた。
直ぐに小さく鋭い痛みを感じ、眉を少し動かしていれば傷口からは赤い血が溢れる。
「血を、飲んでください。血を飲めば、楽になるんですよね」
「何言ってやがる。そんな真似ができるか……!」
額に汗を浮かべながら、真っ青な顔をしているのに土方さんはそれでも強がって見せる。
だからといって私は引くつもりはなかった。
「そんな顔色をして、苦しそうにしているのに強がらないでください!これ以上、貴方の苦しむ姿は……見たくない」
「……雪村」
「お願いします、飲んでください……土方さん」
私は必死に食い下がりながら、血の滴る指先を土方さんの目の前に差し出す。
彼は無言のまま、私に視線を向けてから指先にも視線を向けて、血を見つめていた。
歯ぎしりをして、手を伸ばしてたまるかと必死に強がっていた。
だけどやがて、観念したように土方さんは呟いた。
「……馬鹿なことしやがる。嫁入り前の女が、自分の肌に傷をつけるもんじゃねえ」
そう言いながら、土方さんはゆっくりと私の手を取ると指先から滴る血を見つめる。
そして唇を噛み締めてから、溢れた血を舐め取った。
「っ……」
柔らかく熱い舌が傷口をなぞり、そこから溢れている血をゆっくりとすすり、土方さんの喉がゆっくりと嚥下したのが見えた。
