第11章 乞い求む【土方歳三編】
平助君の言葉を聞いた土方さんは、お茶を口にしてから少しして、目を細めながら答えた。
「……大阪城から引き上げる時に、近藤さんに言われたんだ。もし自分な大将だったら、たとえ兵士が二、三百人になっちまっても、大阪城に立てこもって、とことんまで戦ってーー。最後は腹を切って、武士の生き様を見せつけてやるのに、ってな」
彼の言葉に、私も平助君も何も言えなかった。
「……肩に弾食らって寝込んでるあの人がそこまで言ってる時に、具合悪いからって俺だけ休んでられねえだろ」
きっと、土方さんだって他の隊士の方々と一緒で不安が渦巻いているはず。
それでも土方さんを支えているのは、今も怪我でふせっている近藤さんなんだ。
近藤さんという存在は本当に大きい。
彼がいるだけで、土方さんや他の方は頑張ろうとしているのだから。
そして、土方さんはまだ片付けなければいけない仕事があるからと言って、すぐに部屋に戻ってしまった。
昨夜も夜遅くまで部屋の明かりがついていたけども、今日もそうなのだろうか。
「……でもさ、きついのはきっと、これからだぜ。土方さんはまだ羅刹になったばっかで、吸血衝動が出てないみたいだからな」
「……え?」
「……羅刹になるとな、血を呑みたくて呑みたくて、仕方なくなっちまうんだよ。剣の稽古で思いっきりぶっ叩かれるのなんか、比べ物にならねえくらい苦しくて……、いっそ殺してくれって思うくらいだもんな」
「……そんな」
吸血衝動がそんなに苦しいものだなんて知らなかった。
今でも土方さんは辛そうなのに、もし吸血衝動が襲ってきたらどうなってしまうか……。
「平助君。その吸血衝動を抑える方法ってないの?」
「……血を飲めば、嘘みたいに良くなっちまう。でも、それはあくまでもその場しのぎに過ぎねえからな。時間が経つと、また苦しくなる。……しかも最初の頃は少しの血でよかったのに、そのうち、多くの量を飲まなきゃ落ち着かなくなってくるんだ」
彼の言葉に、私は言葉を無くしてしまい唖然としてしまった。
人の血をすすらなければ生きていけない、かりそめの命。
その事に私は眉を下げながら、俯かせていた顔を平助君へと向ける。
平助君は血を飲んでいるの?そう聞きたかったけれども、そんな事は聞けなかった。
だって平助君は凄く辛そうにしていから。
「じゃあ、俺は部屋に戻ってるから」
