第11章 乞い求む【土方歳三編】
「土方さん……、お帰りなさい」
「……何だ、まだ起きてやがったのか」
広間に入ってきたのは土方さんだった。
気丈に振舞ってはいるけれども、土方さんの足取りはおぼつかないよつに見える。
目元には濃い隈が浮かんでいて、顔も青白いというりも白く色を失っているような気がした。
何時か、気が緩んだ瞬間に倒れてしまいそう。
そう思えるほどに土方さんは、かなりの危うさを感じてしまう顔色をしていた。
(このままじゃ、本当に倒れてしまう)
そうさせない為にも、何かお手伝いできないだろうか。
私は眉を下げながら、疲れきった表情をしている土方さんに声をかけた。
「土方さん、何か私が出来ることはありますか?」
「ねえよ。余計な気を回さず、おとなしくしてろ」
「そう……ですよね」
やっぱり私に出来ることはない。
出来ることは本当に少ない事に、歯がゆく感じてしまうと土方さんが困ったような表情を浮かべる。
「……おい、だからいちいち辛気くせえ顔をすんのはやめろ」
「え、あ!ごめんなさい……!」
詫びる言葉にまで、沈んだ響きが出てしまう。
最近は本当に沈んだ気分になる事が多いせいか、言葉までこんな風になっていた。
これでは駄目なのは分かっているのに……。
「……余計な心配は要らねえから、とりあえず茶でも淹れてこい。おまえの淹れる茶は、悪くねてからな」
「はい……!直ぐお持ちしますね!」
土方さんの言葉に嬉しくなって、私は思わず微笑みながら急いで広間を出た。
「土方さんってさあ……、何だかんだ言って、あいつには甘いよな」
「……うるせえ」
そうして、私は勝手場でお茶を淹れてから土方さんと平助君がいる広間に急いだ。
ついでにと平助君の文のお茶も淹れてきた。
「お待たせしました。平助君も、どうぞ」
「ありがとうな千尋。お、落雁だ」
「お茶うけ、落雁くらしいかなくて……」
「……構わねえ。飲んだら、すぐに仕事に戻らなきゃならねえからな」
「そんなに働いて大丈夫なのか?羅刹になっちまったんなら、夜だけ働いた方がいいんじゃねえの?」
平助君の言葉に私は少しだけ頷く。
だって夜だけ働いた方が、羅刹となっている土方さんはきっと楽なはず。
なのに彼は朝も昼も働いていて、きっとかなり身体に負担をかけているだろうに。
それなのに彼は何故、休まないのだろう。
