第11章 乞い求む【土方歳三編】
「よお、千尋!こんばんは」
「平助君、こんばんは」
広間に入ってきたのは平助君であり、もう夜だから羅刹の彼は起きていたのだろう。
そんな彼に私はさっきから不思議に思っていた事を尋ねる。
「ねえ、平助君。さっきから他の隊士さんを見ないけど、何処に行ったか知ってる?」
「新八っつぁんと左之さんなら、隊士を連れて吉原に遊びに行っちまったよ。で、オレが留守番させられてるってわけ。オレ、あの人たちの使いっ走りでも何でもねえんだけどな。雑用押し付けられても困っちまうぜ」
「そうだったのね」
「……ま、以前と変わらない扱いをしてくれるっていうのはうれしいけどさ」
がらんと静けさが響く広間の中、平助君は少しだけ寂しそうに笑う。
「そういえば、山南さんは?姿が見当たらないけど」
「山南さんなら、見回りだってさ」
「また、見回り?京にいた頃と違って、この江戸を守るお役目を仰せつかってるわけじゃないのに?」
私の言葉に、平助君は沈んだ面持ちのまま黙り込む。
最近だけど、山南さんはよく夜になると一人で外に出かけていたりする。
その事に何故か不安を感じてしまいながら、手に持っていた布を強く握った。
「……最近、山南さんの様子がおかしいんだ。今日も、夜になってからいきなり【見回りしてきます】なんて言い出して。オレも一緒に行くって言ったんだけど、一人で平気だって言われちまってさ……」
「そうなのね……。島田さんが言ってたけど、近頃辻斬りが増えてるらしいから、その為なのかな?」
だけど、それは不安な事でもある。
京にいた頃、山南さんは羅刹隊と共に夜の見回りをしては不逞浪士を残虐に刺殺したりしていた。
しかも血が一滴も残らずにと、かなりの事をしていたのだ。
今も、そんな事をしていなければいいけど。
そんな不安があったのは私だけじゃないみたいで、平助君もどこか不安そうに呟いた。
「……なら、いいんだけどな。そういえば、最近さ、あまり千鶴と一緒にいねえよな」
「うん。千鶴は相馬君が心配で、よく傍にいるし……私は私で、土方さんが心配で傍にいたりしてるから、一緒にいるのが少し減っちゃったの」
「そっか。そういえば、相馬も土方さんも羅刹になっちまったんだよな……」
平助君の言葉に、私は苦笑を浮かべた時だった。
広間の襖が静かに開いた。
