第10章 乱世【土方歳三編】
少しだけ震えた声。
その声に私は眉を下げながら、彼の横顔を見つめる。
「俺たちは、誠の武士になりてえと思って、必死に坂道を登ってきたつもりだ。その道を選んだことを間違いだと思ったことは、一度もねえ。源さんや、山崎……今回の戦いで亡くなった連中も、きっと同じ思いでいてくれた筈だ」
「……土方さん」
「だから……、生き残った俺たちは、死んでいった皆が信じてくれた道を全うするしかねえんだ」
土方さんは、遙か東の空を怖いほどの気迫をみなぎらせた瞳で見つめていた。
そんな彼の言葉に私は目を見開かせてしまう。
ずっと、私のせいで亡くなった井上さんや山崎さんにどう償うべきなのか考えていた。
今までずっとそれに悩んでいたけれども……。
「土方さん。土方さんに、お伝えしないといけない言葉があります」
「何だ?」
「井上さんが……、亡くなる前に、土方さんにと仰っていたんです。【力不足で申し訳ない。最後まで共に在れなかったことを許してほしい。こんな私を京まで一緒に連れてきてくれて、最後の夢を見せてくれて、感謝してもしきれない】……って」
言葉を伝えながら、私の目からは何度も何度も涙が零れ落ちていった。
それを乱雑に拭いながらも最後まで、井上さんの言葉を土方さんに伝えた。
井上さんの遺言を伝え終わると、土方さんは僅かに瞼を震わせた。
そして息を飲む仕草を見せながらも、彼の目は東の空へと向けられている。
「……ったく。源さんもずいぶん、酔狂なことを言うもんだな。力不足だと?夢を見せてくれて感謝しきれねえだと?あの人の人柄に支えられてたのは、俺たちの方だっつうのに……」
土方さんはやがて、込み上げてきたものをこらえるように目を細める。
遙か東の水平線からは、太陽が昇り始めていた。
「羅刹になっちまったせいかな。……今日は、日の光がやけに目にしみやがる」
そう言った後、彼は決然とした眼差しで水平線を見据えながら言った。
「……見ててくれよ、源さん、山崎。俺たちは、こんかもんじゃ終わらねえ。江戸に戻ったらすぐに体勢を立て直して、あんた方の仇を取ってやるからな。そして、腰抜けの幕臣共の心に、薩長の奴らの心にーー。新選組の名を、刻みつけてやる。絶対に忘れられねえようにしてやるさ」
彼の横顔は神々しいほどに凛々しく、目が離す事が出来なかった。