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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第10章 乱世【土方歳三編】


そんな中、土方さんだけが何か言いたげな眼差しで海面を見下ろしていた。
山崎さんの亡骸はしばらくの間、波間を漂っていたけれども、やがて海の奥へと消えていき見えなくなってしまった。

(……今まで、ありがとうございました。山崎さん)

水葬が終わると、近藤さんと沖田さんは支えられながら船の中にある部屋へと戻って行った。
そして私と千鶴も部屋に戻り、今まで起きたことを話し合っていた。

井上さんが、風間に殺されたこと。
土方さんが変若水を飲んでしまったことを話し、千鶴からは伏見奉行所から逃げる最中に三木さんに遭遇したこと。
そして相馬君が変若水を飲んでしまったこと、その後に風間に遭遇したことを聞かされた。

(……相馬君も、変若水を飲んだ……)

その事は土方さんにも伝えられていた。
だけども、相馬君も土方さん同様に変若水を飲んだことを後悔したいなかった。

そして、翌日の朝早くの時刻。
なかなか眠ることが出来なかった私は、甲板へと足を向けていた。

「……静か」

波の音が聞こえてくるけれども、夜の海はとても静かだった。
その静かさを感じながら歩いていると、人影を見つけた。

「……土方さん」

そこには海を眺めている土方さんの姿があった。
すると、土方さんは私の声が聞こえたのかゆっくりと振り返る。

「……おまえか。どうしたんだ?こんな朝早くに」
「……眠れなくて、気がついたらこんな時間になっていて、何気なくここに。……土方さんは?」
「……おまえと似たようなもんだ」
「そう、ですよね……」

あれだけの事があったばかり。
土方さんだって、一人で考えたいことがあるはずだと思っていれば、やがて彼は天上出静かに瞬く星空を仰いでいた。

東の空はもう、白み始めている。
もうすぐで夜明けを迎えて、徐々に太陽も見えてくる頃なのだろう。

「おまえの気持ちがわからねえわけじゃねえが……あまり、ここに長居しねえ方がいいんじゃねえか?」
「……え?」
「女は、身体を冷やしちゃいけねえっていうだろ」
「……大丈夫です。ここに、居たいんです」
「……そうか」

そこで会話が途切れてしまう。
聞こえてくるのは、波の音でだけであり、また静かになってしまう。
その静けさのせいなのか、脳裏には井上さんや山崎さん達のことを思い浮んでいた。
そんな時、土方さんが言葉を発した。

「今まで、俺は……」
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