第10章 乱世【土方歳三編】
「……雪村君……千尋君。さっきも言ったが……今後も副長のことを……、よろしく頼む。副長が……、新選組が勝利する様を、その目で見届けてくれ……」
「……わかりました。ちゃんと、土方さんの傍にいます。この目で見ます……」
声を震わせながら、私は山崎さんの言葉に何度も頷いて見せた。
そして私の言葉を聞いた山崎さんの表情は、苦しさから安らいだものに変わる。
やがて、その瞼は静かに閉ざされたーー。
「……山崎さん?山崎さん…………山崎、さ……ん」
名前を呼んでも彼は返事をしてくれない。
握っていた手にはもう力は無く、私は顔を俯かせながら声を押し殺して涙を流し続けた。
「……静かな最期だな。まるで、眠ってるみてえだ」
その後、山崎さんの亡骸は同乗していた幕臣の榎本武揚という方の提案で水葬されることになった。
甲板には新選組の隊士の方々が集まっていて、その中には近藤さんや沖田さんの姿もある。
「大丈夫か?近藤さん。一人で立てるか……」
「ああ。すまないな、トシ」
近藤さんは土方さんに支えられながら歩き、隊士の方々の顔をゆっくりと見回す。
そして真っ直ぐな声で言葉を紡いだ。
「……諸君。山崎烝君は監察方の要として、長年、新選組を陰から支えてくれた。それが、このような最期を遂げることとなってしまい……、俺も、無念でならない。山崎君は、無私の男だった。どんな時でも決して不平不満を漏らしたりせず、困難な隊務にも全力で当たってくれていた。そんな彼に敬意を表し……水葬という形で、弔ってあげたいと思う」
やがて山崎さんの亡骸が、隊士の方々の前へと運ばれてくる。
近藤さんはそんな山崎さんに優しく微笑みかける。
「……さらばだ、山崎君。あの世で、我々の戦いを見守っていてくれ」
近藤さんが、最後の別れの挨拶を口にすると、それを合図にして山崎さんの亡骸が海へと投げ込まれる。
ゆっくりと彼の身体は深い深い海へと落ちていき、それを見ながら私は千鶴と寄り添いながら見送った。
「ったく、山崎の野郎……。さっさと死んじまいやがって」
「文句言っても始まらねえだろ。……一番無念なのは、きっと山崎本人だと思うぜ」
「うるせえ!んなことは俺だって、よくわかってるんだよ!」
涙こそ流さずにいるけれども、皆さんの瞼は赤く腫れ上がっていた。
きっと、人目につかない所で涙を流したのだろう。