第10章 乱世【土方歳三編】
この状況で土方さんを呼ぶということは……。
私は唇を噛み締めながらも、千鶴と目を合わせるとお互い頷きあった。
「わかりました!すぐに呼んできます。待っていてください!千尋、私、呼んでくるから!」
「うん……。山崎さん、直ぐに千鶴が土方さんを呼んできてくださりますから」
そう言うと、山崎さんは力無く微笑んで頷いた。
すると山崎さんは眉を下げながら、私へと手を伸ばしてくるのでその手を優しく包む。
冷たくなっている手に目を思わず見張ってしまう。
「雪村君……、君に、頼みたい、ことがある」
「……なんですか?私が、出来ることなら何でも仰ってください」
「……副長の、傍にいてやってくれ。あの人は、直ぐに……直ぐに無理をされる。君ならば、あの人を止めてくれるから」
「……わかりました。わかりました、山崎さん」
手を握りながら私は頷く。
そんな私に山崎さんは安堵したように微笑みを浮かべた。
すると彼が微笑んだの同時に、部屋の扉が開いて、千鶴と土方さんが姿を見せる。
「山崎……」
「山崎さん、土方さんを連れてきましたよ」
「ああ。……ありがとう、雪村君」
山崎さんの顔にはもう、既に血の気が全くない。
最期の時が近いのは、もうはっきりと見て取れてしまった。
そんな山崎さんはいくつもの脂汗を浮かべながら、土方さんへと言葉をかける。
「副長……、最後までお手伝いすることができず、申し訳ございません」
「何を言ってやがる。詫びるよりも、その怪我を治す方が先だろうが」
困ったように笑う土方さんだけども、彼も山崎さんとの別離が近いことは分かっているようだった。
ゆっくりと山崎さんに近寄ると、彼が寝そべっている寝台の横に屈む。
土方さんの目は揺れていた。
苦しさと悲しさ、色んな辛いものが混じながら揺れている。
そんな瞳で山崎さんを見ていた。
「思えば、この四年間……あなたの手足となって働いた日々は、何にも勝る宝でした。針医者の息子だったこの俺が、武士としての生を全うできたのは……、新選組があってこそです。願わくば、最後までお供したかったのですが……」
山崎さんは苦しげに息をしながらも、精一杯、最後の言葉を紡ぐ。
「……もういい。あまり喋ると、傷に障るぞ」
やがて山崎さんの瞳が、私の方へと向けられた。