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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第10章 乱世【土方歳三編】


土方さんは笑みを浮かべると城壁を見上げる。
そしてその先にある城を捉えると、口元を歪ませるように更に微笑んだ。

「ここに来て、ようやく明るい未来が見えてきたぜ」
「明るい、未来……?」
「ああ。この城は、何があっても絶対に落ちねえ。ここにこもってる限り、俺たちの負けはねえってことだ。真田幸村でもできなかった戦を、できるかもしれねえんだぜ。しかも、源さんや山崎の仇を討てるときた。……これが、浮かれずにいられるかよ」

彼の表情は、あの時の……風間と戦っていた時とは違っていた。
今の土方さんの表情は勝つ為の戦いをする表情になっている。
その事に少しだけ私は安堵してしまう。

(彼はまだ、勝負を捨ててしまってる訳じゃないんだ……)

そう思っている時だった。
背後から誰かに名前を呼ばれてる気がして、なんだろうと思いながら振り返る。

「千尋!!千尋!!」
「……千鶴ッ!!」

私の名前を呼んでいたのは、行方が分からずにいた千鶴だった。
彼女の後ろには相馬君もいて、私は思わず走り出すと千鶴を抱き締めた。

「千鶴……、千鶴ッ……!よかった……よかった……」
「千尋ッ……!よかった、居てくれて……本当に」

涙がボロボロと零れ落ちた。
千鶴が生きて戻ってきてくれたことが嬉しくて、子供のように泣いてしまう。
そして千鶴も泣き出していて、二人で抱き締め合いながら泣き続けた。

ふと、少し離れた所で相馬君は私たちを見ると、彼も何故か泣き出しそうな表情をしながら微笑んでるのに気がついた。
二人が無事でいてくれてよかった。
そう思っている時だ。

「副長、こちらにいらっしゃいましたか!」
「どうした?」

慌てた表情をした島田さんが土方さんに駆け寄ってきて、気まずそうな表情をしながら言葉を発した。

「その……、これから江戸に引き上げるので、船に乗ってくださいとのことです」
「江戸に?どういうことだ。ここで、薩長の奴らを迎え撃つんじゃねえのか?」
「それが、その……」

島田さんの言葉に驚愕しているのは土方さんだけじゃなかった。
周りの隊士さんたちも驚きを隠せない表情を浮かべ、周りはざわつき始める。

島田さんは土方さんの問に、答えにくそうに口ごもってしまう。
そして、島田さん自身も信じられないといった口ぶりでこう告げた。
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