第10章 乱世【土方歳三編】
土方さんの声は震えていた。
誰よりも泣きたいはずなのに、それなのに懸命に笑顔を作ろうとしている彼の姿に涙が溢れ出す。
でも、今は泣く時じゃないと私は唇を噛み締めながら永倉さんが汲んできた水で山崎さんの手当をする。
(私のせいだ……。私が、私がいたから井上さんは犠牲になったんだ……)
私のせいで亡くなった井上さん、羅刹となってしまった土方さん。
そして土方さんを身を挺して庇い、重症を負ってしまった山崎さん。
彼らに私はどう償えばいいんだろう……。
「取り敢えずの、応急処置は出来ました……」
「新八、原田。お前らは山崎を運べ……俺たちは、源さん達の亡骸を埋葬してから行く」
「……わかった」
原田さん達は山崎さんを抱え、山を降りていった。
その場に残った土方さんと斎藤さんは、刀の鞘で土を掘り起こしている。
そんな彼らを見ながら、私はもう冷たくなってしまった井上さんの手を取った。
「……井上さん」
さっきまでは暖かった手は、今は雪のように冷たい。
少し前までは井上さんと会話をして、この手の温もりを感じていたのに。
「……いのうえ、さんっ……。ごめんなさいっ、ごめん……ごめんなさいっ!!」
涙が溢れて止まらない。
井上さんの手を握りしめながら、私はただ泣き続けることしか出来なかった。
もう返事もしてくれない彼に謝り続けながら……。
「ごめんなさいっ、ごめんなさい……!ごめんっ、ごめんなさいっっ」
「……雪村」
背後で土方さんの声が聞こえた。
すると、私の頭を彼の手が乗ったかと思えば抱き寄せられる。
「……遅くなって、悪かった」
土方さんが謝るのは違う。
全部私のせいなのに……そんな言葉は言えずに、私はただ泣くことしか出来なかった。
そして私を抱き寄せている土方さんの身体は震えていた。
「……悪かったッ」
その晩。
昼間の劣勢を取り返す為、山南さんたち羅刹隊が敵陣地に切り込んだという。
日が沈んでしまえば、銃の狙いを定めにくくなる、そう見込んでの奇襲だった。
当初は驚くべき戦果を上げ、こちら側に有利な形の戦況が展開すると思われたがーー。
敵側の鉄砲隊が放った特殊な銃弾により、羅刹隊は本来の力を発揮出来なくなった。
この敗北により、味方は総崩れとなってしまった。