第10章 乱世【土方歳三編】
「隊士がやたら死んでるみてえだが……、もしかして、薩長の奴らと戦ってたのか?だがこりゃ、どう見ても刀傷だよな……」
「……山崎を見てやってくれ。まだ、死んじゃいないはずだ」
「えっーー!」
土方さんの言葉に、永倉さん達は驚愕したように目を見開かせる。
そして永倉さん達の視線は私へと向き、直ぐに血を流し続けて倒れている人が誰なのか気がついたようだ。
「お、おい、どうしたんだよ!?しっかりしろって、山崎ー!」
「……こりゃ、ひでえな。千尋、山崎はどうなっちまうんだ?まさかーー」
「やま……山崎さんはっ……」
上手く言葉が出ない。
まるで水を何日も飲んでいないように、喉の奥は乾いているようだ。
そして私は山崎さんの怪我の様子を見て、今後の経過を予測してから、何も言えなくなった。
泣きながら黙ってしまう私に、永倉さんは焦ったように私の両肩を掴む。
「答えてくれって!山崎はどうなっちまうんだ?まさかーー」
「……どなたか、綺麗な……汚れていない布を持っていませんか?」
「布だったら、俺のサラシを使ってくれ」
「……ありがとう、ございます、原田さん。あと、できれば、傷を洗う為のお酒を……。焼酎があれば」
「焼酎は、さすがに持ってねえな……!」
「近くに、綺麗な水が流れている沢があった。水を汲んでこよう」
「いや、俺が行ってくる!体力だけは自信があるからな。千尋ちゃん、山崎のこと、よろしく頼むぜ!」
泣いている場合じゃない。
私は走って山道を駆け上がっていった永倉さんを見てから、目元を強く擦った。
泣く暇があれば、目の前の命を助けることを考えるべきだ。
山崎さんの怪我の具合を見ながら、どう手当するのが正しいかと考える。
父様がどう手当をしていたが、前に読んだ医学本ではどうやってするのが正しいと書いてあったかを思い出していく。
「……副長、ここで一体何が?」
斎藤さんの質問に、土方さんは答えられずにいた。
やるせない表情をしながら地面を見つめていると思えば、悔しそうに顔を歪ませていく。
「……まさかこの俺が、隊士を犠牲にして生き延びることになるなんてな」
「犠牲……?」
「源さんの亡骸が、あっちにあるんだ。埋めるの、手伝ってくれねえか?あと、源さんの部下の連中も。……さすがにこの時期に野ざらしじゃ、いくらなんでも寒過ぎるだろうからな」