第10章 乱世【土方歳三編】
「山崎……、おまえ、どうして……」
土方さんの髪の色が元の黒へ、目も何時もの色へと戻っていた。
そして彼の瞳は、今にも泣き出しそうなぐらいに潤んでいる。
「山崎さん……っ」
私は何度も山崎さんに呼び掛けた。
まだ息はある、身体もまだ暖かいけれども彼の身体に触れている手は違う暖かさで濡れていく。
手は山崎さんの血で真っ赤に染まり、それを見た時に井上さんが殺された光景を思い出した。
涙が溢れていく。
息苦しくて、吐きそうで、目眩もして、声も出なくなった時だった。
遠くから聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「おーい、土方さん、山崎、源さーん!千尋ちゃーん!どこにいるんだ!?」
その声は永倉さんのものだった。
すると、彼の声が聞こえた風間は顔を不快に歪ませる。
「く……!仲間が駆けつけてきたか。かくなる上は、おまえたちだけでも……!」
そう言って、風間は刀の柄を握る手に力を込めようとした時。
砂利が踏まれる音が聞こえて、目の前に見覚えのある鬼が現れた。
その鬼は薩摩藩に協力をしている鬼・天霧九寿だ。
「……やめなさい。これ以上のた戦いは、いたずらに犠牲を増やすだけです」
「この俺に、退けと言うのか?俺の顔に傷を負わせた愚か者を、見過ごせと!?」
「我々がここで手を下すのはたやすい。ですがそれは、薩摩藩の意向に反します。彼らはあくまでも、自らの手による倒幕を望んでます。……我ら、鬼の手によるものではなく。そのことを忘れないでいただきたい」
「く……!」
天霧の言葉には風間は明らかに不満を抱いている様子を見せている。
だけども、ここで鬼同士、事を構えても無益だという理性が働いたのだろう。
風間は何時もの髪色へと戻り、角も消え去って刀を納めた。
「……土方といったな。おまえの名前は、決して忘れぬ。今日の借りは、必ず返すからな。覚えておけ」
「そりゃ、こっちの台詞だ。てめえだけは絶対に、地獄に堕としてやらなきゃ気が済まねえ」
負けじと言い放つ土方さんを、風間はきつい眼差しで睨みつけていた。
そして一度だけ私へと視線を向けると、そのまま天霧と共に背を向けて森の奥へと姿を消す。
そんな鬼たちと入れ違うように、永倉さんと原田さんと斎藤さんが走ってきた。
「あっ、いたいた!土方さん、こりゃ一体どうなってるんだ?」