第10章 乱世【土方歳三編】
(これだと、お互いどちらかが死なないと終わる気がしない……)
しかも、土方さんの方はどう見ても自分で自分を傷つけているような捨て身の戦い方。
何時も冷静に隊士の方々に指示を出している土方さんとは別人みたい。
このままじゃ、土方さんは羅刹だといっても危険。
止めなければと思っているのに、彼らの凄まじい殺気に身体は強ばって動くことができない。
息すらやっと出来るような凄まじい殺気に、脳が警鐘まで鳴らす。
(どうすれば、どうすればいいの……)
殺される覚悟で、止めるしかないかもしれない。
そう思った時だった。
「おい、雪村君!」
「……やま、ざきさん……?」
足音と共に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
振り返れば忍び装束を纏った山崎さんがいて、彼は焦ったように言葉を投げかけてくる。
「副長が、淀藩の様子を見に行ったきり戻っていないんだ。途中で、副長に会わなかったか?」
「山崎さん……、土方さんが、鬼と……風間と戦っていて……井上、さんはっ、もう……」
上手く喋れない。
そう思っていれば、山崎さんの視線は私ではなく違う方向へと向いていた。
彼の視線の先は、風間と羅刹と化した土方さんの戦っている光景が広がっている。
「……何だ?あの白い髪の鬼は……。羅刹、か……?いや、片方の鬼が着ている着物には、見覚えがある。あれはまさか……!」
「土方さんがっ、土方さんが、変若水を飲んで……!」
「なん、だとーー!?」
その矢先の事だ。
「ぐっ……!」
土方さんが手にしていた、刃こぼれして折れてしまいそうな刀が鈍い音と共に弾き飛ばされていた。
「……勝負あったな。そのなまくらで、よく今まで持ちこたえたものだ」
「く……!」
「……土方さん!」
土方さんは身を低くしたまま、じりじりと間合いを空けようとしていた。
だけど、風間は冷や汗を滲ませる土方さんの反応を楽しむかのように、ゆったりとした足取りで歩み寄っていく。
「覚えているだろうな?貴様は、ただでは殺さん。およそ思いつく限りの苦痛を味わせて、いたぶりながら殺してやる」
絶対優位に立っただからなのか、先程まで怒り狂っていたのが嘘のように風間は冷静になっている。
「ああ、おまえを慕う新選組の連中の元に、皮をはいで塩漬けにした骸を送りつけてなるのもいいな……」
その言葉にぞっとしてしまい、背筋が凍る。