第10章 乱世【土方歳三編】
土方さんの挑発の言葉に、風間は顔を俯かせて上げようとしない。
顔を覆う風間の手からは、ぽたぽたと血の雫が零れ落ちていたけど、鬼の持つ治癒能力で直ぐにその傷を塞いでいく。
「おのれ……!」
顔に傷を付けられた事、しかもまがい物と散々罵った羅刹に傷を付けられた事に風間は相当な怒りを感じたようだ。
身体を怒りで震わせ、目を見開かせながら狂ったように叫ぶ。
「虫けら以下のまがい物の分際で……!よくもこの俺の顔に傷をつけたな!?」
風間の整った顔が、憤怒に歪んでいく。
まるで絵物語に出てきた、悪鬼のような表情だった。
「貴様だけは……、絶対に許さんぞ!この世に存在するあらゆる苦痛を味わせ、なぶり殺しにしてやる!」
「……本性を現しやがったな。いいぜ、できるもんならやってみやがれ」
土方さんは風間の怒りを余裕の笑みを浮かべながら受け止めていた。
すると風間は怒り任せで刀を振るい、土方さんは素早い動きでそれを受け止め、刀同士がぶつかる音が響く。
「ぐ、うっ……!」
すると土方さんは顔を歪ませた。
風間の一撃が、先程とは重さが変わったらしい。
土方さんの歪んだ表情には、苦悶が浮かんでいた。
「貴様がーー!貴様ごときがまがい物が、この俺の顔に傷をっ……!」
怒りに理性を失ったのか、風間は黄金色の瞳を見開きながら狂ったように叫び、そして刀を土方さんへと打ち込んでいく。
その刀は見るだけで分かる位の重さが込められていて、刀同士がぶつかる度に鈍すぎる音が聞こえてきた。
風間の重い攻撃を受け止めていた土方さんの顔は、先程の余裕さはもうない。
苦悶を浮かべながら、頬に汗を浮かべてなんとか受け止めている。
「くそったれ……!」
刃をぶつけ合う度に、土方さんの刀がボロボロになり刃こぼれを起こしている。
もう今にも彼の刀は折れてしまいそうなぐらいで、土方さんは必死に、折れそうな刀をかばう。
憎悪をぶつけ合い、互いの血肉をすすってもまだ満足できないような、そんな異様な迫力に私はその場に竦んでしまう。
「てめえだけは、絶対に許さねえぜ。地獄に落ちる時は、共に引きずり込んでやる」
血塗れになった土方さんは、白髪の鬼と化した彼は闘気に満ちた目を輝かせる。
「ほざけ!地獄に落ちるのは貴様だけだ!」
野生の獣さながらの闘争心を剥き出しにして、彼らはお互いの刀をぶつけ合う。