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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第10章 乱世【土方歳三編】


土方さんが取り出した物に思わず息を呑む。
彼の手の中で光る瓶と、ゆらりと揺れる赤い水薬に私が目を見張っていれば、風間が怒りが滲んだ声を発した。

「……また、変若水か。どこまでも愚かな真似を」

嫌悪感を露わにする風間に、土方さんは口元を歪めながら笑っていた。

「愚か?それがどうしたってんだ。俺たちは、元から愚か者の集団だ。馬鹿げた夢を見て、それだけひたすら追いかけてここまで来た。今はまだ、坂道を登ってる途中なんだ。こんな所でぶっ倒れて、転げ落ちちまうわけにゃいかねえんだよーー!」
「……たとえ羅刹となったとしても、所詮はまがい物。鬼の敵ではない」

風間の言葉に土方さんは表情を変えない。
そして不敵に口元を歪めている土方さんに、私は首を左右に振った。

「駄目、ですっ、土方さん……!」

だけど私の言葉は彼に聞こえていなかった。
彼は風間を鋭い目で睨みつけながら、手の中にある変若水の瓶を強く握りしめる。

「……そんなのは、やってみなきゃわからねえぜ」
「土方さん、駄目ッ!!」

大声を出して、叫ぶように制するけれども土方さんは小瓶の蓋を開けて、勢いよくその中身を飲み干してしまう。
その光景を見た私は絶望に目を見開かせ、変若水を飲み干してしまった土方さんをただ見つめる事しか出来なかった。

そして、変若水を飲み干した土方さんの見た目が変わっていく。
髪の毛は白髪に、瞳は血のような赤へと変わり、そこには私たち鬼とは違う【鬼】が現れた。

「……うるせえんだよ」

羅刹となった土方さんの、低い声が響く。

「いい加減、我慢ならねえ。腰抜けの幕府共も、邪魔くせえ鬼も。まがい物だと?それが一体どうしたってんだ。俺たちは今までも散々、武士のまがい物として扱われてきたじゃねえか」
「……ひじ、かたさん……」

土方さんの赤い眼に苛立ちがこもる。
そして彼は口元に歪んだ不敵な笑みを浮かべていて、私は彼のその姿に涙がまた零れ落ちてしまった。
理由は分からない、ただ涙が零れていく。

「だけどな……、今の世の中、どこに武士がいるってんだよ?腰が引けて城ん中閉じ籠ってら日和見決め込んで……。あわよくば勝ち馬に乗ろうなんて考えてる卑しい連中ばかりじゃねえか。俺たちはそんな連中より、よっぽど武士だぜ!」

彼の言葉は、風間だけに向けられた物じゃないと直ぐに分かった。
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