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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第10章 乱世【土方歳三編】


風間の動きの方が早かった。
冷笑を浮かべた風間は、いつ振り下ろしたのか見える程の動きで井上さんの身体を袈裟に切り下ろし、彼の身体からは生暖かい血が吹き出す。

彼の手にあった小瓶は地面へと落ち、無残に割れて中身は土に吸収されていく。
そして井上さんの吹き出した血は、私の頬や髪の毛に着物に飛び散っていた。

「……あっ、あ……」
「……済まんな、どうも力が入り過ぎてしまったようだ」
「く……!」

井上さんは歯を食いしばりながら、目の前にいる私を見上げた。

「……何をしている!?早く逃げんか!」
「ははっ、逃げろと。無理に決まっているだろう……この娘は俺に手首を掴まれているのだから」
「腕を、噛み付いてでも逃げなさいっ!」

私は風間を見上げると、彼の腕を掴んで噛み付く。
だけどもまるで風間は子犬に噛まれたように、私を嘲笑っていた。

「無駄なことを……」

血が滲むぐらいに噛み付いた。
なのに、風間は涼し気な顔をしながら私から井上さんへと視線を移す。
そして冷笑を浮かべながら囁いた。

「……やれやれ。度しがたい愚か者というのも、いるものだな。何故これだけの力の差を目の当たりにしてなお戦いをやめようとせぬのか……。理解に苦しむ」
「や、やめて……、お願い、やめて!」

風間は刀を振り上げると、狂気的な笑みを浮かべて井上さんへと振り下ろした。

「やめてぇええっーー!!」

絶叫した刹那、風間の刀は井上さんの身体を斬った。
そして井上さんは悲鳴一つ上げずに、身体はゆっくりと地面へと倒れていった。

「あっ……あ……いの、うえ、さん……」

風間は私の腕を離した。
そして、私は地面へと崩れ落ちて目の前に倒れている井上さんに手を伸ばして身体に触れる。

「井上さんっ……井上さんっ、井上さんっ!」

彼の手を握りしめればまだ温かい。
父様とよく似た温もりはまだあるのに、井上さんはどんなに私が呼んでも目を開けてくれなかった。
ただ目を瞑り、身体から生ぬるい鮮血を流し続けるだけ。

目から涙が溢れ出す。
ぼろぼろと零れる涙は、井上さんの顔に落ちていき地面にも落ちていく。

「……邪魔者はいなくなったな。もうおまえを助ける者はいない。さあ、おとなしく俺と共に来るのだ。我が妻となるもう一人の女鬼よ」
「……るさない」
「ん?」
「ゆるさない……ゆるさない……」
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