第10章 乱世【土方歳三編】
そして角を曲がった時、私は思わず息を呑む。
新選組の隊服を身に着けた隊士さんたちが、折り重なるように林道に倒れていた。
そしてその中心にはーー。
「……見覚えのある羽織を着た連中がうろついているから、まさかとは思ったが……。やはり、貴様らも来ていたか」
「風間、千景ッ!!」
身動きしない死体の群れの中心に、嘲笑うように微笑む風間の姿があった。
よりによって、こんな時に何故この男がここにいるんだと思いなが歯かみする。
「どうして、ここにっ!」
「淀藩の動向に見に、出向いたまでだ。面倒事にも、たまには手を出してみるものだな。……まさか、こんな所であえるとは思わなかったぞ」
蛇のような眼差しに、私は思わず息を飲んだ。
そして風間は自分の足元に倒れている隊士の方々を見下ろした。
「おまえが戻ってくるまでの退屈凌ぎにこの連中と遊んではみたが……残念ながら、暇すらつぶせなかった」
風間の言葉に怒りが芽生えていく。
彼が手にしている刀は血で汚れていて、隊士の方々の血で土は赤黒く色を変えていた。
思わず血から目を逸らせざ、かたわらにいる井上さんが小刻みに肩を震わせているのが目に入る。
倒れている隊士の方々は全員、井上さんの六番組を中心に結成されている。
全員が井上さんにとって大切な部下の人達だ。
(……私のせいだ。純粋の鬼じゃないからって、千鶴よりは狙われてないと思ってた私が招いた結果……)
その事実に身体が震えていれば、風間は口元に弧を描きながら微笑んでいた。
「前回は思わぬ邪魔が入ったが、今度こそは一緒に来てもらうぞ、千尋」
「……っ!」
前なら『誰が行くものですか』と叫んでいた。
だけど、今はそう叫ぶ事すら出来ずにただ風間を見ながら立ち尽くしてしまう。
私のせいで隊士の方々が死んでしまった。
もし、ここで私が彼に逆らえば『嫌だ』と言ってしまえば井上さんはどうなってしまうのだろう。
井上さんに何かあるよりは、私が風間の元に行けば良いと思い歩き出そうとした時だった。
「……下がっていなさい」
「井上さん……?」
歩き出そうとした私を、井上さんは庇うように後ろに下がらしてから前に出た。
目の前にいる彼に私は嫌な予感がして、身体が震え始める。
「井上さん、何を……」
「早く逃げなさい。そして、トシさんにこう伝えてくれ」